本日発売の『逆説のスタートアップ思考』、最初の一部と目次 (+ 参考リンク) を公開
本日『逆説のスタートアップ思考』が Amazon 等で発売開始となりました。今回は出版社の方のご厚意で「はじめに」の一部と目次、そして目次に関連する過去の記事へのリンクを公開したいと思います。購入の検討の際に参考にしていただければ幸いです。
はじめに
(前略)
近年、スタートアップを目指した起業が世界中で増えています。
アメリカのトップレベルの大学ではキャリアの一つとして〝起業〟という選択肢が現実的になりました。中でもトップエリートほど「自分たちの責務としてスタートアップを興し、社会をよりよくしていくべき」と考える風潮が生まれているようです。たとえば理系のトップ校の MIT(マサチューセッツ工科大学)では、卒業後5年以内に起業する人が全体の12%を超えるようになっています。
さらに各国の政府も、次なる経済成長の期待をスタートアップや起業にかけ、様々な支援を行うようになりました。企業間のオープンイノベーションの取り組みも盛んになり、その中でスタートアップとの協業や買収を検討する企業も増えつつあります。
このように世界的にスタートアップへの関心が集まっています。そのため今後スタートアップに関わる人は増加してくるものと思われます
しかし、スタートアップに初めて関わる人たちの目に、スタートアップという事業はおそらく少し異質なものとして映るはずです。実際、急成長を目標にするスタートアップの世界では、普通のビジネスの考え方や起業の方法論がうまくはまらないことが多くあります。
その最も特徴的なところは「スタートアップは反直観的である」という点にあります。本書もそうした反直観的な事実があることを伝えたいので『逆説』という掲題を付けています。
こで言う反直観的とは「瞬時の推論や直観的な判断が実は正しくない」事柄のことを指します。そして逆説とは「一見、真理にそむいているようにみえて、実は一面の真理を言い表している表現」のことです。
スタートアップとしてのよいアイデアやよい戦略には、往々にして「自分の直観的な判断が間違っている」ことや「一見、真理にそむいているように見える」ものが含まれます。そのスタートアップの反直観性や逆説を正しく理解していなければ、スタートアップは成功しません
そのため本書は、スタートアップという領域で、反直観的な事柄や逆説的な言説が起こる背景を説明し、それらに基づくスタートアップの思考法について、より多くの人たちに理解を深めていただくことを目的として書きました。
ただし後述しますが、この考え方は「起業」全般に当てはまるものではありません。あくまでスタートアップのような「急成長」を目的とする事業にのみ当てはまるものとしてお考えください。
(中略)
本書は、これまで筆者が伝えてきたスタートアップに関するノウハウの中でも、特に起業前や初期のスタートアップにとって重要な3点、「アイデア」「戦略」「プロダクト」について集中的に解説します。
この他にも、チームや実行力、ファイナンスなど、スタートアップの成功にとって必要な要素はたくさんあります。しかし今回は、その中でもスタートアップに特有の、反直観的で逆説的な原則を理解してもらうために、「アイデア」「戦略」「プロダクト」の三つに焦点を絞りたいと考えています。
またどんなに能力が高く優秀でも、運を味方にできない限り、スタートアップは成功しません。そのため本書では「運」についても解説します。
そして最後には、こうしたスタートアップの思考法の有効性を確認する意味で、キャリア開発や投資といった別の領域に適用する試みをしてみたいと思います。
すでに起業している方々には、本書よりももっと詳細なノウハウが必要です。そうした方々に向けては、インターネット上に各種スライドを用意しているので、そちらを参照して ください(「Takaaki Umada スライド」などで検索してください)。
また本書はスタートアップの思考法を理解してもらうために、起業家のみならずスタートアップに関わる方々向けにも読めるように書いたつもりです。そのため本書の読者は以下のような方々を想定しています。
- スタートアップをこれから始める人
- すでにスタートアップを始めているが、その原則を確認したい人
- キャリアとしての起業に興味のある大学生や新社会人
また、今の時点ではスタートアップに直接関わっていない社会人の中でも、特に以下のような方々なら、参考になる部分は多いのではないでしょうか。
- 新規事業の担当者
- 新規事業を承認する立場にある経営者層
- スタートアップに関わることになった企業内担当者
私の作ったスタートアップ向けのスライドはよく「これを読んでおいて、とぽんと渡せるから楽」という感想をいただいていました。本書もそれに準じて、スタートアップについて興味がある人や理解してほしい人に「これを読んでおいて」と渡せるような形にしたつもりです。スタートアップに興味のある上司や友人が出てきた際には本書を紹介してみてください。
歴史を振り返ってみれば、世界を変えるようなイノベーションの多くが、本当に小さな新興企業から生まれています。今大きくなっている企業も、最初はほんの小さな企業として始まり、その後イノベーションを生んで急成長を遂げて、大企業になりました。
より多くのイノベーションが求められる現代社会、そしてこれからの将来にかけて、スタートアップという急成長する事業の形態の重要性はさらに増してくるものと思われます。
だからこそ、シリコンバレーで先んじて培われてきたスタートアップの方法論について多くの方にご理解いただき、そしてたくさんの人たちがスタートアップに挑戦できる環境を作る一助ができればと考えています。
本書はそうした思いから、スタートアップの独特な思考法を多くの方々に理解いただくための入門書として執筆しました。紹介している考え方や思想の多くは先人たちのものであり、新規性はそれほどないかもしれませんが、多くの人にとって有用であるように、極力短く、分かりやすく解説したつもりです。
そしてスタートアップ的な思考法は、スタートアップというビジネス形態だけではなく、学術研究や新規事業といった分野でも役立つと信じています。本書で紹介するスタートアップ的な思考方法、つまりスタートアップ思考が、スタートアップ以外の分野においても、新しい何かを始めようとしている読者の方々の役に立つことがあれば幸いです。
なお、前章の『スタートアップとは』は、スタートアップという言葉に、そもそもあまり馴染みのない方に向けて書きました。もしすでにスタートアップについてそれなりの理解をお持ちの方は読み飛ばし、第1章の『アイデア』から読み始めていただければと思います。
以上です。新しい年度が始まる前に新しいことを考えたい、という方々、ぜひ Amazon 等で購入して下さい(Kindle 版は 1 〜 2 ヶ月先になるそうです)。
なお、目次は以下のとおりです。
はじめに
前章 スタートアップとは
- スタートアップとは
- なぜスタートアップなのか
- 「スタートアップ思考」が体系化され始めた
- サバイバルするためのスタートアップ思考(→ Medium: 論理的思考、デザイン思考、そしてスタートアップ思考の時代へ)
- 健全な社会のためのスタートアップ
第一章 アイデア――「不合理」なほうが合理的
- スタートアップとは「反直観的」である
- 「不合理」なほうが合理的
- 「悪く見えるアイデア」を選ぶとはいえ
- 「難しい課題」のほうが簡単
- ソーシャルインパクトの重要性(→ Medium: 次のスタートアップのパーティー会場を探して:「社会に良い影響を与えれば儲かる」という流れと”社会的インパクト投資”)
- 「面倒な仕事」を選ぶ(→ Medium: 企業は「面倒な仕事」によって定義され、お金をもらう)
- 「説明しにくいアイデア」を選ぶ
- より良いものではなく「異なるもの」を
- 「反領域的な課題」へおもちゃのような解決策を(→ Medium: 「反領域的なスタートアップ」という考え方と、狂ったアイデアの気付き方)
- 今はまだ「名状しがたい何か」(→ Medium: 狂ったアイデアは、「今はまだ名状しがたい」狂った問題から始まる)
- 考え出すのでなく「気付く」
- 急速な変化は「徐々に始まる」(→ Medium: 成功するスタートアップは一夜にして成功する、ただし)
- 「Why Now?」
- 着目すべきは「劇的に変化するテクノロジ」(→ Medium: テクノロジやツールは指数関数的に進歩しているので、世界はこれからもきっと良くなる(良くする))
- インベンションから「イノベーション」へ(→ Medium: 答えが問いを待っている(技術が課題を待っている))
- スタートアップは「べき乗則」である(→ Slideshare: 起業家向けベンチャーキャピタル入門 (1) VCの仕組み編)
- ヒットではなく「ホームラン」
- 「ビジョン・ミッション・ストーリー」の重要性
- 「未来の仮説」としてのスタートアップ(→ Medium: 未来の仮説としてのスタートアップ)
- コラム:アイデアのチェックリスト(→ Medium: スタートアップ向きのアイデアかどうかのチェックリスト)
第二章 戦略――小さな市場を独占せよ
- 競争ではなく「独占」
- 競争は「偏る」
- 独占が消費者へ提供する「メリット」
- 独占の「条件」
- 「イノベーションのジレンマ」を利用する
- 「小さい市場」を狙う
- 「急成長する市場」を狙う
- 「長く」独占する
- 「徐々に」広げる
- 競争したら「負け犬」
- 先行者利益よりも「終盤を制すること」
- 価値の大きさと価値の割合は「独立」している
- 独自の「価値」と独自の「やり方」(→ Slideshare: スタートアップの戦略&ビジネスモデルの考え方)
- 「何をしないか」決める
- 「最高」を目指さない
- 戦略は「実践」から生まれる
- コラム:大企業でアイデアを守る仕組みの重要性(→ Medium: オープンイノベーションと闇イノベーション)
第三章 プロダクト――多数の「好き」より少数の「愛」を
- 製品が通る道
- 「人が欲しがるもの」を作る
- 「製品以外」もプロダクト(→ Slideshare: ゼロからはじめるプロダクトマネージャー生活)
- プロダクト体験は「仮説の集合」
- 「今日はどうやってプロジェクトを殺そう」
- 顧客自身も「分かっていない」(→ Slideshare: 人間と話す)
- 多数の好きより「少数の愛」
- とにかく「ローンチ」
- 「スケールしない」ことをする(→ Slideshare: マーケティングを捨てよ、サポートへ出よう)
- でも「成長率」を追う
- 「継続率と離脱率」で愛を測る(Slideshare: 君にグロースハックはいらない)
- 「口コミ」で愛を測る
- 「マジックモーメント」は一刻も早く
- 「メトリクス」を追跡する
- メトリクスが従うのは「ビジョン」(→ Medium: 「御社の独自のメトリクスは何ですか?」あるいはプロダクトのビジョン)
- メトリクスは「一つ」
- 追跡は「徹底的に」
- 「サポート」は製品開発だ
- これから必要なのは「カスタマーサクセス」(→ Slideshare: カスタマーサポートのことは嫌いでも、カスタマーサクセスは嫌いにならないでください)
- 「セールス」も製品開発だ(→ Slideshare: セールスアニマルになろう)
- 「ディストリビューション」がボトルネック
- 経営を「ハック」する
- 最後のプロダクトは「チーム」
- コラム:スタートアップはモメンタムを失ったら死ぬ(→ Medium: スタートアップはモメンタムによって生き延びる)
第四章 運をコントロールする
- 起業家の「リスク」とは(→ Medium: 起業家はリスクを極力取らない)
- 「バーベル戦略」でブラックスワンを回避する
- 「アンチフラジャイル」に賭けろ
- 「回数と速度」はコントロールできる
- 「量」が「質」を生む
- 「損」は怖い?
- 「大きな負け」を避ける
- 「助け合う」こと(→ Medium: シリコンバレーはただの場所ではなくマインドやコミュニティである)
- コラム:東大生とスタートアップ(→ Medium: 実はキャリアで損をしやすい高学歴エリート学生たち)
終章 逆説のキャリア思考
- スタートアップ思考をキャリアに組み込む
- 人生におけるバーベル戦略とアンチフラジャイルの価値
- 偶然性、不確実性、ランダム性、ボラティリティ
- キャリアのランダム性(→ Slideshare: 転職基準)
- スタートアップは安易にお勧めできない
- スタートアップのことなんて知らなくていい
- やりたいことはやってみないと分からない
- まずはサイドプロジェクトから(→ Medium: スタートアップの時代の終わり(そしてプロジェクトの時代))
- 逆説のスタートアップ「試行」
おわりに
- 今を生きる私たちにできること
- 誰かの挑戦で世界は良くなっている
- より少ない人数で世界は変えられる