「エモい」「ヤバい」「名状しがたい」アイデアから始まるスタートアップ
明日 3/31 (金) に『逆説のスタートアップ思考』が Kindle 版で発売されます(年度始めの 4/1, 2 の週末読書に是非どうぞ)。書籍版の帯には「これはヤバい本だ」という孫泰蔵さんの推薦コメントをいただいていますが、この「ヤバい」という言葉が、実は本の内容と符合しているのではないか、というフィードバックをセミナーの中で指摘を受けたので、Medium でも共有しておきます。
まとめると、「少数の人達だけが賛同するような、ヤバい/エモいアイデアを探せ」とアイデアの章は書けるかもしれない、ということです。
今はまだ名状しがたいアイデア
本書の中では、良いアイデアのひとつの特徴として「名状しがたいもの」という性質を挙げています。
そうした名状しがたいアイデアは、まだ言語化できないけれど、でも一部の人たちにとっては通じるようなアイデアです。それは Peter Thiel が『本当に成功している企業』の特徴として挙げる、「既存のカテゴリーにはまらない、事業内容を説明しにくい企業」のアイデア、とも言えるかもしれません。
例えば以下のような企業は、それらのカテゴリ名が出てくる前に出てきたスタートアップです。彼らは当時はまだ良い言葉のなかった、名状しがたいビジネスをやり始めることで成功しています。
- シェアリングエコノミー: Uber や Airbnb
- アクションカム:GoPro
- クラウドソーシング:oDesk (Upwork)
- マーケティングオートメーション:HubSpot
- アクセラレーター:Y Combinator
エモい、ヤバい、という抽象表現
並行して近年、「エモい」という言葉が 2016 年の新語大賞に輝き、落合陽一先生やメディアアートに興味のある学生たちを中心に頻繁に使われているように思います。たとえば、
- 「これエモいよね」「エモい」「激エモ」
- 「これはヤバい」「いや、ヤバくはないかなぁ」「ヤバいでしょ」
といったような会話において、「ヤバい」や「エモい」といった表現でやり取りされているのは、まさに「今はまだうまく言語化できていないけれど、何かがそこにある」といったような、高い抽象度の概念の交換のように感じています。あるいは、極端な共通認識や特殊な文脈を持つ一部の人たちだけに通じる、一人称的な考え方に近い何か、とも言えるかもしれません。
もちろん、そうした「ヤバい」「エモい」というものを言語化しないままでいるのは知的怠惰かもしれません(一方で、よく分からないものを言語化せずによく分からないままで耐える、という姿勢も重要だとは思います)。そしてもちろん、すべてのヤバいアイデアやエモいアイデアが、スケールしうるスタートアップのアイデアになるとは思っていません。
しかしそこにヤバみやエモさがあると気付いている、少数の仲間達がいるのであれば、もしかするとそれは「賛成する人がほとんどいない大切な真実」(Zero to One) かもしれません。個人的には、そうした気付きは大事にしたほうがよいのかなと思っています。
実際、Mark Zuckerberg たちが Facebook を作り始めたときも、「これクールだよね」「絶対ヤバい」みたいなノリで作り始めたのではないか、と思われるインタビューもあったりします。
そしてそのヤバさやヤバみを共有できる少数の「究極よりも少しマイルドなカルト」(Zero to One) 人たちだけで、サイドプロジェクト的にそのヤバい部分を堀り始めてみる、というのは、スタートアップ的な急成長するアイデアに気付く良い方法なのではないでしょうか。
そしてそれはアートの文脈でも同じようなことが言えるのではないかと思います。
だからこそ、今風の「少数の人達だけが賛同するような、ヤバい/エモいアイデアを探せ」というまとめ方は分かりやすい指針になりうるのかなと。いただいたご指摘が面白いレトリックだと思ったので、こちらでも共有させていただく次第です。
なお Kindle 版での週末の読書の際には『逆説のスタートアップ思考』の読み方ガイドもご活用ください。