中国の MIT「清華大学」周辺のスタートアップエコシステムに圧倒されてきました

4/13 から 3 日間、清華大学 (Tsinghua University) を訪問して、大学とその周辺のスタートアップエコシステムを見学してきました。4/25 (火) には同行した学生たちと一緒に報告会を行います。

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TusStar の支援メニュー

よく知られているように、中国のスタートアップは独自の生態系を作っています。たとえば日本ではハードウェアスタートアップの文脈で深圳が有名で、最近 Economist でも特集された他、4/17 号の日経ビジネスでも深圳特集がありました。高須さんの『メイカーズのエコシステム』でもかなり詳しく当時の状況が綴られています。

一方で Web サービスやアプリに関して言えば、グレートファイアウォールなどで海外のサービスの流入を制限しながら、中国国内で独自のサービスを育てていった結果、UX レベルでは日本はおろかシリコンバレーよりも優れたサービスを提供していることが多々あります(特に決済関係)。

たとえば昨年私もオフィスに訪問させてもらった自転車シェアリングサービスの ofo の UX の素晴らしさについては、最近 BCG Digital Ventures の坪田さんが書かれています。たまたま Asian startups step out of Silicon Valey’s shadow という記事が 4/20 に出ていましたが、まさにシリコンバレーを超えて成長するサービスも今後続々と出てきそうだという予感があります。

一方、米国から中国への注目は昨今さらに高まっているようで、John Maeda の Design in Tech Report 2017 でも中国についてページを割いて QR, Voice, FU × AR, Transportation など、デザインや UX で先んじる中国のアプリの特徴を挙げています。また昨年の a16z Summit でも a16z が中国のトレンド特集のセッションをしています。そのセッションの中で紹介されている Bloomberg の記事は WeChat を中心にかなり便利になっているサービス群を紹介していて良記事です。

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John Maeda の Design in Tech Report 2017
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https://www.bloomberg.com/news/articles/2016-06-09/life-in-the-people-s-republic-of-wechat

昨年末には北京大学、そして深圳の清華大学深圳校を訪問しましたが、スタートアップの育成システムという意味では、今回訪問した北京の清華大学の仕組みが印象的だったので今回は清華大学について書いておきます。

清華大学とスタートアップ

Economist の記事によれば、2016 年の国際特許の出願数は深圳が一番ですが、ついで北京が 2 番目の位置を付けています。

そんな北京の技術系スタートアップの中心となっているのが清華大学です。

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http://www.economist.com/news/special-report/21720076-copycats-are-out-innovators-are-shenzhen-hothouse-innovation

清華大学は中国の MIT (北京大学は中国の Harvard)とも呼ばれ、「中国の清華大学、米MIT抑え世界ランク1位」といった記事が出るぐらい、全国から優秀な学生が集まる理系&工学系中心の大学です。とある米国系 IT 企業の人は、「北京大学より圧倒的に清華大学の学生のリクルーティングのほうに力を入れている」と言っていましたし、また今中国国内でいちばん人気なのは清華大学の金融学科だそうです。

話に聞くところ、さすがに大学のトップ層は官僚や待遇の良い大企業に行くようですが、しかしそうした一流企業に落ちて普通の企業に行くぐらいなら自分でスタートアップする、というケースも多いらしく、スタートアップが進路の第二の選択肢になっていると聞きました。また最終日にお会いした、清華大学の博士課程を経て起業した人が「博士まで学んできたことを社会に役立てるには起業しかなかった」と言い切っており、それも印象的でした。

なお、JVCA が内閣府向けに出した『大学発・研究開発法人発ベンチャーを生み出すために』というレポートにおいても、清華大学周辺のエコシステムは参照されています。

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http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/wg/7kai/siryo4.pdf

清華大学のスタートアップ支援の仕組み

結論から言うと、精華大学のスタートアップの支援環境はかなり普通な印象でした(確かに考えればそうなるよね、という意味での「普通」であって、別に悪い意味ではありません)。工夫が随所に見られて凄い、というわけではなく、真っ当なことを真っ当にやっている、という感想です。

ただお金と人材が大量にいるので、その真っ当さが功を奏しているとも感じます。その結果、ものすごく多くの量のスタートアップが生まれてきています。

正直言えば、圧倒されたのはそのお金と人材の部分ですが、それが良いシステムに組み込まれることで日本の何倍もの効果を発揮しているのではないか、という印象を受けます。

そうした意味で、比較的お金のない日本が中国のスタートアップ支援環境をそのまま真似できるようなものではないと思うものの、学ぶべき点は多数あるように思います。

清華大学のスタートアップ支援の仕組みは以下の 7 つの段階に整理されています。これらで印象的なのは、スタートアップが生まれる前から大きく成長するまで、一貫して大学や大学の周辺組織が支援していることです。

  1. 大学教育
  2. X-Lab (コワーキングスペース)
  3. TusStar Plan
  4. TusStar Camp
  5. Diamond Plan
  6. IPO
  7. Global Network

それぞれについて簡単に解説します。

Tsinghua Dream Course とも呼ばれ、主に清華大学のビジネスススクールの教授陣が運営しているようです。2016年までに6期を開催、25社を輩出しています。

一方、東大のアントレプレナー道場は既に 13 期開催していて、東大のほうが取り組み自体は長いですし、出ている社数も多いかもしれませんが、清華大学側は既に100M元を調達しているというのが凄いなと。

現役学生や OB/OG が使えるコワーキングスペースを提供しているのがX-Labです。さらにトレーニング+メンターとサポートも充実しており、スタッフの数も充実しています。清華大学のビジネススクールの教授も多数サポートしているようです。

X-Lab は 2013 年 4 月に開設し、まだ出来てわずか 3, 4 年にも関わらず、2016年時点で1,000チームを支援し、300社を輩出しているそうです(現在は 400 社を超えてるとか)。うち 100 社以上が投資を受けており、X-Lab に来た現役学生や卒業生は 8,000 人を超えるとのこと。なお、1,000 チームというのは、本当にアイデアレベルのものも含んでいる、とのことでした。

驚いたのは、X-Lab の認知度の高さと出て来るプロダクトの製品の高さでした。工学系の学生はほとんどその場所や支援のことを知っているそうです。また一例として、工業デザインの学生が X-Lab に相談に行ったところ、その施設の支援を受けてプロダクト開発まで順調に進み、修士を卒業すると同時に毎週 1,000 個出荷されるプロダクトを作るスタートアップの CEO となっている、という状態でした。

私も東京大学で似たような施設を運営していますが、施設自体は東大のほうが充実しているのでは、と思うものの、スタッフの数では圧倒的に負けていました。またメンターとなっているエンジェル投資家や大企業の社長の顔ぶれが凄く、学生や卒業生たちにもお金が集まりやすいのだろうなという印象があります。EIR (Entrepreneur-in-Residence) のほか、AIR (Angel-in-Residence) もいるそうです。AIR っていいですね。

なお、この Step 2 までが大学側が行っていることで、Step 3 からは TusStar という民間企業が支援を実施します。

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TusStar は Tus Holdings が中国全国各地に 70 以上持つインキュベーション施設であり、年間 3,000 の会社を支援し、1,000 の起業家向け活動を行っています。

ここで Tus Holdings の紹介をしておきます。Tus Holdings は 1993 年にサイエンスパークである TusPark の運営から始まった企業です。TusPark は清華大学の校門を出てすぐそばにあり、当初から予定されていた通り、大学の技術を事業やスタートアップに繋げる機能を持っています。

面白いのは、そこから出てきた企業に投資などをしていたら、Tus 自体の事業範囲が増えてきて時価総額数兆円のコングロマリット企業になったという点です。

彼ら Tus Holdings の強みはその事業領域の広さにあり、TusPark や TusStar から育ったスタートアップは、自分たちのビジネス領域にマッチする Tus Holdings の各種産業の子会社の支援を受けて、さらなる成長支援を受けられます。

そしてもちろん、Tus Holdings の後ろには清華大学がいるので、大学との連携も盤石です。

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発展の歴史

北京や上海等の30都市にあり、100 の VC が 10 の TusStar 66.8 M 元の投資を実行済みとのこと。実際に何をやってくれるかはちょっとメモっていませんでした。

これまで 6 バッチで 44 社の支援をして、そのうち 14 社が IPO したとのこと。かなり数を絞って支援するのがこちらの特徴のようです。

すでに 27 社 IPO しているとのこと。IPO の支援もしているようです。

さらにグローバルでの成長を求める場合、グローバルで連携しているインキュベーション施設との連携も支援するとのことです。

そんな TusStar は自分たちのやっていることを以下の画像のようにまとめています。インキュベーションサービス、エンジェル投資、トレーニング、そしてパートナーシップのプラットフォームが特徴だそうで、100 を超える組織との協業や、14 のビジネス領域をカバーしています。聞くとこちらもスタッフの数が物凄かったです…。

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TusStar Pattern

まとめ

今後中国からは様々なテクノロジスタートアップが出てきそうだ、というのが今回訪問した印象です。深圳だけではなく、北京、特にその大学周辺にはもう少し注目されてもいいように思います。

特に清華大学という優秀な人材と技術を持つ大学の近くに、こうした優れた支援システムがあることから、今後はハードテックスタートアップが中国でも増えてきそうな予感があります。

また TusStar の取り組みのもとで、Tus Holdings の各産業の子会社がうまくスタートアップの支援をしているのは羨ましかったです。親会社の Tus Holdings がやれ、といえば子会社側がスタートアップの支援をしなければならない、という状況であるなら、スタートアップと子会社との連携はうまくいきそうです。おそらく Tus グループで買収もするのでしょう。そうした意味で Tus Holdings 全体が VC 的な機能を持ちつつ、事業もやっている、という状況はある意味羨ましくもあります。

日本でも各社が個別にアクセラレーターをしていますが、もしかすると各社のアクセラレーターが何かの傘下でうまく協力&統合すれば、スタートアップも複数のアクセラレーターに応募したりすることなく、スタートアップはどのフェーズにおいても一気通貫した支援を得られるのかなと思いました。

その他思ったことや考えたことなどはイベントでお話します。とても示唆に富んだ中国訪問でした。ありがとうございました。

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シンポジウムの一幕での「イノベーションとアントレプレナーシップ教育」

Written by

The University of Tokyo, Ex-Microsoft, Visual Studio; “Nur das Leben ist glücklich, welches auf die Annehmlichkeiten der Welt verzichten kann.” — Wittgenstein

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