科学技術イノベーションと社会実装イノベーション
「イノベーション=技術革新」という誤解に対する、新たな言葉の使い分けについて
林先生の「AIブームは本物か?-米国の場合、日本の場合-」というレポートが、はてなブックマークで上がってきていました。
そのレポートの最後には、「イノベーション」という言葉の誤解について触れている文があります。
・日本は、いまだに、イノベーションとは、「素晴らしい技術を世界で最初に見つけること」だと誤解している。
・イノベーションのほんとうの意味は、「技術を用いて世界を変えていくこと」。その技術が、電気自動車のような古い技術であるかどうかは、関係がない。
シュンペーターによる5つの類型に立ち戻れば、技術的なもの以外もイノベーションとして挙げられています。
こうした誤解の原因は「イノベーションが技術革新と訳されてしまったのが原因」という指摘が幾度もなされており、先日落合陽一先生も私との対談でそのように語っていました。
しかしそうした誤解の指摘が何度行われても、イノベーションという言葉に対する誤解はなかなか解けていないように感じます。
少し視野を広げて、『情けは人のためならず』などの度々誤用されている言葉を見るに、「その言葉の理解は誤解である」ということを単に伝えるのは、誤解を解く上で実践的にはあまり良いアプローチではないのかもしれません。
中国でのイノベーションの分類
一方、最近聞いた話としては、中国ではイノベーション(創新)が、
- 科学技術イノベーション(科技创新)
- 社会イノベーション(社会创新)
の二つに分かれているという話を聞きました。後者はビジネス的なイノベーションのことを指すそうです。(記憶違いだったらすみません)
こうした二つのフェーズに分けてイノベーションを考えるというのは、たとえばタレブが半発明と発明を分けたり、MIT がイノベーションとアントレプレナーシップを分けたりしているところと発想が似ているように思います。
新たな形容詞:「科学技術」と「社会実装」
そこで日本でも、「イノベーション」という言葉の誤解を解こうと頑張るアプローチではなく、こうした新しい言葉で対抗していく、というアプローチはありなのかなぁと思います。
日本の官僚の皆さんが好きな言葉は「科学技術」の「社会実装」のようなので、たとえばイノベーションという言葉に対してそれぞれの形容詞をつけて
- 科学技術イノベーション
- 社会実装イノベーション
に分けて考え、社会実装のほうでもイノベーションが必要(新しい or 普及した技術を元にした新しいビジネスモデルの開発や新しいチャネルの開拓等)、という認識を広めていく、というアプローチもありなのかなと思います。技術的発明などのイノベーションだけでなく、それを社会に広く実装していくのも「イノベーション」という言葉を使ってもいいぐらい大変なことなんだ、というのを広く知ってもらう上で、一つのやり方として。
個人的にはイノベーションという言葉を多用すると空疎に感じるので、あまり使いたくないのですが、イノベーションと誰かが発したときに、どっちの意味で使ってるのか、ぐらいは確認しても良いのかなと。
(自分の語彙は IT 寄りなので、社会展開(デプロイメント)イノベーションのほうが、ああ確かにデプロイには工夫が必要だな……、と思わせてくれるなとも思いました)
※実際には、中国では3 つに別れている?ようで、検索すると以下のような画像をよく見ました。
- 科学イノベーション
- 技術イノベーション
- 管理イノベーション(ビジネスやシステムのイノベーション)