スタートアップや製品のサーベイをしよう!フォーマット
プロダクトを作りたいという学生の皆さんに一度はお願いしていることが、「チームの仲間と一緒に関連領域のスタートアップやプロダクトをサーベイすること」です。
コンピュータ系の研究サーベイについては、お茶の水女子大学の伊藤先生のサーベイ方法論の資料や筑波大学の落合先生の資料に詳しいですが、今回は私がこれまで学生の皆さんと一緒に改善してきた、スタートアップのアイデアをサーベイするためのフォーマットを紹介します(フォーマット自体はまだ改善していく予定です)。
要約すると
以下の Google Slides のページを各自がコピーして、スタートアップの主なプロダクトの情報を記入して持ち寄ります。
1 枚 10 ~ 15 分ほどの記入時間がかかります。ただしすでにスタートアップの概要を知っている場合です。未知のスタートアップの探索や調査を行うともう少しかかると思います。
チームメンバー各自が 4 ~ 10 枚(社)ぐらい事前に記入してきて、そのあと持ち寄り、紹介して 1 ~ 2 時間ほど議論しあうと知識や分析が共有されていい感じになります。
スタートアップの情報の獲得の仕方は『既存アイデアのサーベイ手法』を参考にしてください。検索に役立つリンクは以下に抜粋しておきます。これらのサイトで調べたい領域のキーワードを入力すると関連スタートアップが出てくると思います。
- CrunchBase (Link)
- AngelList (Link)
- Product Hunt (Link)
- TechCrunch (Link)
- CB Insights のマップ (Link)
- Craft (Link) (競合調査)
- Owler (Link) 競合調査
- Siftery (Link) ⇒ SaaS 製品のときなど
- StackShare (Link) ⇒ 開発者向け製品のときなど
- Hacker News での検索や Show:HN
- Google での検索 (Link)
記入するとこんな感じになります。(少し古いフォーマットでの例です)
レイアウトなどは落合先生のフォーマットを参考にしています。
フォーマットの使い方のポイント
- Google Slides に「スタートアップサーベイフォーマット」の原本を置いています。一般の方はいったん PPT などで保存して、Google Drive にアップしなおして、最初のページを人数分コピーして共同編集者と共有してください。
- サーベイを始める前に、「領域の全体像をつかむためにサーベイする」のか「自分の仮説を反証するためにサーベイする」のかを明確にしたうえで実施すると効果的です。後者の場合は、「自分のこのアイデアがたらしくないとすれば、どこから情報を集めるべきか?」「この領域で空いているところはここではないか?であればこのあたりを調べてみよう」と、自分の仮説を反駁する例を探しながら書いてみてください。
- 構成は基本、Y Combinator 流の 3 分ピッチテンプレートに似せています。該当するスタートアップのピッチを作るつもりで書いていくと良いと思います。
- 記入するときは書きやすいところから始めて大丈夫です。書いてるうちに違う気付きが生まれて、記入順に行き来があるとよいと思います。(例えば競合を考えてたらジョブが違った等)
- マッチング系の場合は、両側ではなくデマンドサイドかサプライサイドのいずれかに絞ってみてください。(Airbnb の場合は宿泊者側など)
- スライドに画像を入れると記憶しやすくなります。ロゴよりは製品やアプリの画像がお勧めです。
- マーケットサイズの出典等はスライド下部の Notes にメモっておいてください。
- 複数プロダクトがあるスタートアップの場合は、メインプロダクトに絞って書いてみてください。
- 調査日時点のプロダクトか、もしくは登場時点のプロダクトかで記入する内容が変わってくるので、右上のほうに日付を書いておいてください。
- ビジネスモデルはあえて省いています。まずは製品の体験や解決する課題に注目してみてください。
<<最大の注意点>>
- レイアウトやフォントや色はいじらないでください。変更すると他の人への認知負荷が異常にかかります。たとえば落合先生のフォーマットと、学生の皆さんが出してきたものを比較してみてください。
例)もともとのフォーマット
例)学生の皆さんが提出してきたもの
上下を比べてみると、フォーマットが少し崩れるだけで随分と見づらくなっているのが分かると思います。なので複数人で共有する場合は同一のフォーマットにして、枠内に収まるようにしてください。
それではいったん戻ります。
サーベイをする意義
基本的には、二度同じ失敗を繰り返さないために調査をしたほうが良いと考えています。すぐに考え付くアイデアはおおよそすでに誰かがやっています。そしてそれが広まっていない、ということは、何かが難しかったり何かが原因で失敗したはずです。二度同じことをやるなとは言いませんが、やるなら過去の事例を学んでからでも遅くないと思います。
ただそうは言っても、多くの場合、アイデアを思いつくと「オリジナルである」と謎に自信を持ってしまって、勢いのまま過去の調査をろくにせずに作ってしまって、作った時間がムダになってしまうことも多くあります(私もあります)。それを防ぐためにも一歩踏みとどまってサーベイをしてみる、ということをお勧めしています。
ただサーベイはやりすぎると手が止まるので、4 ~ 10 社などの制限や、時間制限をつけておいたほうがよいと思います。
1. 全体感とセンスを身に着けられる
サーベイにはプロダクトのセンスを養えるというメリットがあります。人気のあるプロダクトを実際に体験したり、知ってみることで、何がいけそうなアイデアなのかの感覚を鍛えることができます。
実際、起業家の皆さんの話を聞くと、多くの方が起業前に以下のようなことをやっていたという話をしばしば聞きます。
- 起業のアイデアを調査しまくった
- 毎週のように週末に集まってアイデアを出し合った
- 社内で毎週プロダクトを紹介していた
独特なプロダクトを作っている起業家は、国内外のスタートアップのサーベイを他人とやっていた、という人が多さには驚くことが多いです。
2. 他人と一緒にやると知らないことが知れる
サーベイは他人の力を借りて一緒にやると、意外なものを知ることができます。その際にサーベイのフォーマットを統一して行えば、他人と共通のフォーマットを使うことで情報をより共有しやすくなります。
共有をしたうえで議論を通して、以下のようなメリットをぜひ得てください。
- 他人の紹介を通して自分の知らないプロダクトを知る
- 他人の分析や視点を知ってアイデアを深める
3. ログとして残すと未来の自分のためになる
コードを書くときは「数か月後の自分は他人」だと思ってコメントを残すことも多いですが、サーベイも同じで、数か月後の自分のためにもある程度フォーマットを同一にして残しておくと良いと思います。
幸い Google Slides はテキストで Export することができます。Export して JSON 形式などに変換して、Scrapbopx などにためておくと、あとでタグで意外なつながりが見つかったり、検索ができて便利です。
プラスα:時間があればマッピング(可視化)もしてみる
個別検討が終わった後に、サーベイを二次元や三次元でマッピングしてみると理解がより進みます。たとえば、
- それぞれのスライドを A4 の紙に印刷して
- 何かの軸を用意してマップ上に整理していく
という風にすると一覧性が高まります。
私が良く使うのは逆張りマップですが、その他の整理の仕方でもよいと思います。
最後に:自分ならではのフォーマットを模索してみる
このフォーマットはあくまで例です。必ずしもこのフォーマットを使う必要はなく、組織にあったフォーマットを用意していけばいいと思いますし、チームが変わるにつれて次第にフォーマットは変化していくものだと思います。最終的には個々人やチームが、それぞれの文化ややり方にあったフォーマットやプロセスを作っていくことが重要なのだと考えています。
例えば学生の中には、Trello にストック情報とフロー情報を流している人もいました。レビューマトリクスのようなものを使う人もいると思います。
何にせよ、まずは大量のインプットとその情報の整理が重要です。リーンスタートアップが「just do it」ではなく速さを追求するものであるように、サーベイは最初の「速さ」を獲得するのによい手法だと思うので、ぜひ(時間制限を付けつつ)いろいろ調べてみてください。
テストに協力いただいた学生の皆さん、ありがとうございました!
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