地域に根差すスタートアップエコシステム: 良い偶然を生み出すためのネットワークづくり

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『優れた創業者になる方法』http://startupclass.samaltman.com/courses/lec13/

Paypal マフィアの一人であり、Linkedin の創業者でもある Reid Hoffman は、Y Cobinator が主催したスタンフォード大学の『優れた創業者になる方法』という講義の中で、創業者の重要な選択として「どこで会社を始めるか」という点を挙げています。

その理由は、タスクに関連する人的ネットワークを作ることが創業者の一つの大きな仕事だからです。

確かに「自分はどこで起業しても成功できる」という人はほとんどいないでしょう。多くの人は働く場所やそこに住む人たちの恩恵を多かれ少なかれ受けて成功します。

たとえば Google の Larry Page は Steve Jobs に度々アドバイスを貰っていたと言われています (How Google Works)。互いに多忙を極める二人がそれをできたひとつの理由は、彼らの自宅が1ブロック程度にしか離れていなかったからではないかと推測されます。

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またスタートアップの所在地によって、パフォーマンスが異なることも知られています。たとえばバイオテックの産業クラスタで起業したスタートアップは、その他の地域に比べて、

  • より早く Exit しており (中央値で約 2 年早い)
  • より高い金額で Exit している

ことがデータによって支持されています。

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https://lifescivc.com/2017/03/inescapable-gravity-biotechs-key-clusters-great-consolidation-talent-capital-returns/

最近いろいろな相談を受けることが多くなり、スタートアップのエコシステムについて考えることが増えました。

エコシステムに重要な要素としては、起業家のほか、VC や大学、支援体制やアクセラレーターなどの仕組みについて語られることが多いような気がしています。

それぞれはもちろん重要なのですが、私はその中で少し軽視されがちな、スタートアップで働く人同士の「つながり」、ひいては「地域のつながり」に改めて注目したいと思っています。

「地域のつながり」と聞くと少し古いように思われることは重々承知しています。古い因習や田舎特有の濃いつながりを想像されるかもしれません。しかし現代においては、地域に基づいた人のつながりを改めて作ることが、これからの個々のスタートアップの成功や、ひいてはその地域のスタートアップエコシステムにとって重要になるのでは、と考えています。

先日『本郷スタートアップご近所さん会』というアンカンファレンスを開催したのも、本郷という地域におけるスタートアップ同士のつながりを強めるためでした。

そこで今回、イベントを行うことになった背景の解説とともに、

  • 従業員のネットワークを戦略的資源にする
  • ネットの強いつながりと、リアルの弱いつながりと偶然性
  • シリコンバレー株式会社ならぬ(地域)株式会社に向けて

といったことについて書いてみたいと思います。

折しも「かつては助け合いの文化があったベイエリアのコミュニティが劣化しているから引っ越す」という記事が先日話題になっていました。実際、シリコンバレーから出ていく人たちはこの 1 年で増えているようです。

これは地価の高騰によるものでもありますが、一方で地域のコミュニティが破壊されているからだという指摘もあります。逆に言えば、住みやすく、良いコミュニティがある場所には可能性があるのかもしれません。そうした可能性を考えるものとして、そこに関わる人たちが地域を盛り上げていくこと、そうした動機づけになってくれれば嬉しいです。

従業員のネットワークを戦略的資源にする

昨今、リファラル採用をはじめ、従業員のつながりをうまく使うことで自社の事業を推進する動きが強まっています。またオープンイノベーションや副業解禁を始めとして、アイデア創出のために外部とのつながりを求める動きも盛んです。

たとえば、中野先生の『ソーシャル・ネットワークとイノベーション戦略 — 組織からコミュニティのデザインへ』では、イノベーションに寄与するネットワークをデザインするための研究がいくつか紹介されています。

その一つである『ゲームチェンジャー:創造性のトポロジー (Game Changer: The Topology of Creativity)』では、凝集したプロジェクトを複数オーバーラップするネットワーク(特に認知的に距離の離れたネットワーク)を持つほうが、ゲームチェンジが起こるような製品を開発しやすいという仮説を検証していました。ソーシャルネットワークを適切にデザインすることで、新しいアイデアが生まれます。

外部とのつながりだけでなく、内部のネットワークに注目している研究も盛んです。たとえば組織のパフォーマンスは、 トランザクティブメモリーー「誰が何を知っているか (Who knows what)」によって高められることが知られています(入山先生の本など)。これは社内でいかにソーシャルネットワークを作るかが重要だということを示しています。

かつて企業内の人のつながりは「組織図」によって定義されていました。しかし組織図というトップダウンの枠に当てはめて捉えるのではなく、ボトムアップのネットワークとして見ることで、より多くの洞察を導け、さらには戦略資源として活用できるということは、Pentland や矢野さんの研究を引用するまでもなく、多くの人が同意してくれることではないかと思います。

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Pentland のチームの研究: http://socialmachines.media.mit.edu/wp-content/uploads/sites/27/2015/02/hbr-new-science-teams-2012.pdf

そうしてオープンイノベーションを喧伝するようなイベントや支援体が増えつつあるものの、それらがうまくいっているという話は余り聞こえてきません。もちろん多くの新しい取り組みは失敗するので、成功してばかりだとは思えませんが、とはいえ、です。

ではなぜ多くのスタートアップやオープンイノベーションのイベントが行われる中で、新しいアイデアや、そのベースとなる意味のある継続したつながりが生まれないのでしょうか。

その理由として幾つかの仮説が挙げられます。例えば以下のようなものです。

  • 意味のある活動を生むためには継続的なつながりが必要である
  • つながるためにはまず共感が必要である
  • つながりを維持し続けるにはコストがかかる

これらの問題があるため、散発的なイベントでは継続的なコミュニケーションが生まれづらく、その結果、意味のある活動が生まれてこないと考えられます。

その中で、まずはつながりの維持の問題について考えてみたいと思います。

東浩紀は『弱いつながり』の中で、「コミュニケーションが止まるのはインクが足りなくなるからだ」というデリダの言葉を引いています。コミュニケーションが止まるのは、議論の合意に至るからとか、結論が出るからとか、意味のある活動が生まれるからとかではなく、参加者が疲れて飽きるから止まるのです。

コミュニケーションを続けるため、そしてつながり続けるためには、僅かな余裕で実施できて、かつお互いが疲れなくなる仕組みが必要です。

支援する人たちは「もっとスタートアップや支援者同士がつながればいい」と言いますし、それも大きな方向性として正しいのでしょう。しかしそれはプレイヤーを点で捉えているからこそ言えることで、空間的広がりのある面で捉えていないとも言えます。

つながりを維持するためには、時間資源や認知資源が必要です。友人関係が時とともに変わっていくのは、それらの資源が有限であり、必然的に年齢とともに配分が変わり、体力の衰えにより資源全体も減ってしまうからです。

最適な行動をするためにはある種の余裕が必要だというのは、欠乏の行動経済学ゆとりの法則などで指摘されるところです。つながりを維持するためにも資源の余裕が必要です。しかしスタートアップに余裕を求めるのは酷なことでしょう。

だからスタートアップにこそ、「移動による疲れ」を極力なくしつつ、「たまたま会う」という偶然を増やす必要があります。一部地域に集積することは、「インク切れ」を起こさないためにも、偶然を起こすためにも重要ではないかと考えます。

地域のつながりを活かす

集積の経済学で指摘されるように、「集積は輸送費がある臨海閾値を下回ることによって実現され」、「高い輸送費は供給施設の分散を促進するが、低い輸送費はそれらの空間的集中を促進する」傾向にあります。

今後も輸送費(Spulber のいう 4T: transport costs, time costs, transaction costs, tariff)は下がると予想され、限界まで集積は進んでいくものと思われます(その一つの限界が現在のサンフランシスコでしょう)。その文脈で、地域のつながりは今後より重要になっていくのでは、と考えます。

一方、本郷は徐々に日本におけるハードテックスタートアップのクラスターとなりつつあるように感じます。次に必要なのは、そこで働く人たちがつながり、情報を交換できる環境です。

しかし、近くにいれば自然とお互いに情報交換するようになるかというと、決してそんなことはありません。たとえば新しいアイデアを生むために必要なのは社内外のネットワークだと言われ、そのために社外にネットワークを求めに行く人が多いように思いますが、実は社内のネットワークに欠けているからこそ、新しいアイデアが出てきていない、という話もあります。

一つの会社の中でもそうした状況が生まれてしまうのであれば、何か対策を打たなければなりません。そんなとき、行動経済学の知見を活かしてナッジしてく、という手段もありますが、それは過度にパターナリスティックであるとも思えます。

だから、個々人の意思で取れる手段を、と考えると、会社間を超えたつながりを作り、互いが利益を得ていくには、それぞれが意識的に動くということが必要です。それはある種の公共投資のようなものではありますが、公共投資こそが個々人の成功にとっても重要であることは『成功する人は偶然を味方にする — 運と成功の経済学』でも語られるとおりです。

そこで個々人が地域という物理的な場に貢献することが大事ではないかという考えが生まれます。

10/7 (土) に本郷スタートアップご近所さん会というアンカンファレンス的なイベントを開催しました。

これは本郷の地域で頑張るスタートアップの創業者や現場の皆さんが、各々の業務上の課題や、パーソナルな課題(子育て等)について議論するというイベントです。基本的に投資家や士業の方には参加をご遠慮いただき、スタートアップで働く人たちや学生だけを対象にしたものでした。

なぜ地域を絞ったのか、その理由は3つあります。

先ほど組織におけるトランザクティブメモリがパフォーマンスを高めることを書きました。これを応用して、地域におけるトランザクティブメモリを作ることが、それぞれのスタートアップにとっても有用であると考えます。

もちろんスタートアップはそれぞれ技術やビジネスモデルに特徴を持ちますが、一般的な課題は共通しています。たとえば助成金の書類をどう準備すればいいのか、あるいは労務はどうなのか、どこから調達すればいいのか、人材エージェントはどこが使えるのか等々は、どのスタートアップも共通に持つ課題ではないでしょうか。

スタートアップが成功するためには、日々の小さな課題をいかに早く(他人の手や知識を借りつつ)解決するかが重要です。そうした課題は自分が初めて経験するものでも、周りは既に経験していることが多いはずで、少し聞けばすぐに解決するものも多くあります。

シリコンバレーなどであれば上の世代がエンジェル投資家となり、そうした経験を伝達してくれるはずです。しかし日本ではそうした上の世代がまだ薄いため、同世代同士でのノウハウの共有やトランザクティブメモリが必要になってくるものと思います。

イベントで投資家を呼ばずに現場の従業員の皆さんを重視したのも、オペレーションを効率化するためには、現場のつながりが必要だという思いからです。

そこで今回の会では、参加者各々が課題と解決策を持ち寄るようなワークショップを多く開き、それぞれが持つノウハウを共有してもらうようにしました。これは後に説明する共感の話ともつながってきます。

これは「インク切れを避ける」ために必要なことだと考えています。また地域のコミュニティのメリットはすぐに会えるという部分があります。質問があればすぐに聞きに行けます。

それにわざわざメール等で聞くようなことでもないことも、Face to Face であえば「そういえばあの件なんですけど」と聞けることは多くあるのではないでしょうか。

に人の会話のネットワークはテンポラルネットのバースト性を持っていると言われています。また一度話した人(リンクができた人)とは暫くのあいだ話しやすくなり、逆にしばらく話をしなかった人とは話す可能性が低くなる、という話もあります。

地域に絞った理由は、物理的に近くにいると偶然的にリンクが開きやすくなり、会話が生まれやすくなるだろうから、というものです。

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増田『なぜ3人いると噂が広まるのか

実際、これまで偶然その場に居合わせて話をしたから、ヒントをもらえた、という現場を何度も見てきました。その偶然性を生むためには、近くにいる、ということが一つの重要な要因です。

またプライベートを大事にする人は、夜の勉強会には参加できません。特に本郷には 30 代のスタートアップ経営者も多く、家族を持つような人はなかなか夜に動きづらいという声を聞きます。しかしランチミーティングなどであれば実施可能でしょう。そんなとき近くにいるというメリットは大きなものになります。そうしたつながりを維持しやすい仕組みが、物理的な近接性はもたらしてくれるものと思われます。

クリスタキス『つながり 社会的ネットワークの驚くべき力』などで有名になったように、地理的に近い人ではないと幸福は伝染しないという研究結果があります。

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Dynamic spread of happiness in a large social network: longitudinal analysis over 20 years in the Framingham Heart Study: http://www.bmj.com/content/337/bmj.a2338

住む場所を選択する際に、最初に問いかけるべき基本的な質問は「私の幸福に最も貢献してくれる人たちはどこに住んでいるか?」だというのは Dolan, P. (2014) の言葉です。

もともと何かしら幸せになるために働いているはずで、その意味で近くに住む人たちを幸せにすることは、自分の幸せにも跳ね返ってくるはずです。だから地域にコミットすることは自信の幸福にとっても重要なのだと思います。

こうした「つながり」を重要視するると、コミュニケーションが下手な人(いわゆるコミュ障)は経済的利益をも逸するようにも思えます。

しかし実はそうではないと考えています。

コミュ力がないように見えるのは単にコンテキストがあっていないからで、具体的にはいわゆるリア充のコミュニケーション方法と合っていないからです。自分のコンテキストが合うコミュニティがあれば、自分をコミュ障だと思う人も殆どの人が流暢にコミュニケーションできているように思います。

だから独特な文化を持つ、凝集性の高いコミュニティが複数、並列して地域にあることが重要だと考えます。

本郷には幸い複数のコミュニティが生まれつつあり、複数の文化が並行して成り立ちつつあります。渋谷に近い文化を持つスタートアップコミュニティもあれば、研究者に近い文化を持つスタートアップコミュニティもあります。アートやデザインに近い文化を持つコミュニティもそばにできてきました。それにハードテックスタートアップといっても様々です。

それぞれがそれぞれを互いに排斥せず併存できれば、すべての人にとって、一つや二つは合うコミュニティがあるはずです。

さらにそれらの違う認知的特性を持つコミュニティが、一年に一度や二度程度交わることで、弱いつながりが生まれます。そうしたつながりから新たな情報の流通や、ひいては新たなアイデアも生まれてくるものと思われます。それが前述の「ゲームチェンジャー:創造性のトポロジー」で指摘された、アイデアが生まれる環境です。

凝集されたスモールワールドネットワークが複数、同じ場所に併存し、すれ違う地域という意味で、本郷はアドバンテージが生まれつつあると思いますし、そしてスタートアップが本郷に根差す意味も増してきているのではないかと思います。

ネットの強いつながりと、リアルの弱いつながり:必然性と偶然性

Brexit やトランプ大統領の当選を受け、ネットは強いつながりを増幅させることが明らかになってきました。SNS による情報のフィルタリングなどを通して、自分の信念を補強するような情報しか入ってこない状況が分断を生んでいるのだと指摘する声もあります。

かつてネットのほうが世界中の人達と様々な情報が交換できるので、弱いつながりを作り出すという意見が強かったようにも思いますが、どうやら今のネットはそうではないようです。

そうした状況を鑑みてか、2017 年、Facebook は自分たちのミッションを「よりオープンで繋がった世界を作る」から「コミュニティを作る力を人々に与え、世界をもっと近くにする」というものに変えて、オープンであることを標榜しなくなりました。

単にオープンなだけでは、強いつながりを強化するだけで、情報はタコツボ化し、人類全体良い方向に進まない、ということなのかもしれません。一方で、Facebook はグループ機能を強化して、コミュニティを作ることで世界を変えていこうとしているようです。

そして直観に反するかもしれませんが、現代(の特定の世代)においては、リアルは強いつながりではなく、弱いつながりを作り出します。

私たちには検索エンジンという強い味方がありますが、検索のためのキーワードを知らなければ検索できない、そのために検索ワードを探す旅(観光)が必要だ、というのは東浩紀の指摘です。逆に検索ワードを知っていれば必然的に情報に辿り着ける時代でもあります。

情報を得るためには弱いつながりが必要だと言われますが、その文脈において、現代は、リアルが生み出す弱いつながりをうまく使う重要性が増していると言えます。

リアルはノイズを生み出します。

残念なことに、私たちは物理的に縛られています。何かをしようとすれば、多くの場合必然的にどこかに行かなくてはなりません。郵便局に郵便を出しに行く、というのも、目的だけを考えれば本来必要のない行為の一つですし、ご飯を食べなきゃいけないというのも、ビジネスの成功という観点からすればある意味ノイズです。(もちろん生きる上では喜びの一つであります)

ノイズは一見意味がないように見えますが、『これは水です』でも指摘されるように、見方を変えれば違う意味を取り出せます。

それにたとえばノイズ的な行動によってたまたま二人が本郷三丁目の交差点で出会ってリンクが開き、それ以降また話し始める、というのは地理的な近接性があってこそ起こりうることです。

またネットワークにちょっとしたノイズとなるボット(たまにミスするボット)が介在することで、集団知能が上がるという Shiardo & Christakis らの研究日本語解説)もある通り、ノイズは場合によっては全体に有効であると言えます。

デリダ=東浩紀風にいえば、多少の情報をあえて『誤配』すること、その重要性が高まっているのではないかと考えると、まさにノイズを生み出すリアルにおける、弱いつながりが重要な時代になってきていると言えます。

ただ、つながりを継続するには、最初につながりを作る必要があります。どのようにつながりを作ればいいのか、と考えたときに、よく巷で言われるノウハウはお互いの共通項を探すことです。

今回のイベントでアンカンファレンス形式を実施したのは、そうした共通項を見つけるためでもありますが、さらにもう一歩進んで、互いの課題を出し合うことで互いに共感を得るためです。

偶然性、アイロニー、連帯』の中でローティは、その連帯の基盤を他者への共感や配慮に求めています。そうした共感に基づくつながりが、ローティの文脈ではリベラリズムに、そして今回の文脈では互いの事業への好影響という、経済的な利益へも良い影響を与えていくのではないかと思います。

シリコンバレーはときに「シリコンバレー株式会社」と呼ばれます。

その理由は、スタートアップ一社一社はシリコンバレー株式会社の新規事業の一部門のようなもので、投資家は承認者(上司)であり、全体として一つの会社であるともみなせるからです。

実際 Sam Altman は「なぜシリコンバレーは機能するのか」というエッセイの中で、「Y Combinaor は meta-company (メタ企業) のようなものだ」と書いています。あるいは Y Combinator は系列 (Keiretsu) だ、と New Yorker は書いています。

また YC の採択企業同士がやっているように、スタートアップがお互いの新製品を使い合うことにより、お互いの利益や学びになっていく、という構造もまた Keiretsu 的です。

本郷でも某社の製品を他のスタートアップ複数社が使うことで、お互いにフィードバックしている、という光景を見るようになってきました。それが進んでいけば、仮に自分のスタートアップが失敗しても他の部署(他のスタートアップ)に行けばいい、というセーフティネットもできあがっていくはずです。

観光客の哲学』の中で、ナショナリズムとグローバリズム、政治と経済、人間と動物、上半身と下半身、思考と欲望、という二層構造がそれぞれ重なりつつ共存している時代性が指摘されていましたが、現在は偶然に依る連帯の可能性を探る時代であり、その基盤となるのは経済、ひいては住む地域(あるいは国)の経済成長であると信じています。

良い偶然が起こる物理環境づくり

どうやって良い偶然性に身を晒すか、それが創業する場所を選ぶ、ということではなないかと思います。地域を適切に選ぶことにより誰かと会う確率を上げることはできます。それが偶然性にどう戦略的に身を晒すか、ということです。

大前研一は「人間が変わる方法は3つしかない。1つ目は時間配分を変えること。2つ目は住む場所を変えること。3つ目は付き合う人を変えること。」と言ったそうです。その中でも時間配分を変えることを強調していましたが、それには継続した意識的な意思決定が必要なので、個人的には一回の決意でなんとかなる「住む場所を変える」を推したいと考えています。

多くのものが計算可能になった時代、また意図せざる出来事を排除できるようになった時代(あるいは優先的選択により自然とそうなってしまっている時代)、私たちはあえて「意図せざるもの」を確率的に許容するような環境に身をおくことも大事である、という話になるのかもしれません。

そしてそうした良い偶然が生まれる環境を作るには、物理的な身体性が大事であり、身体性が根差す(根差さざるを得ない)地域に関わる人たちの協働が必要です。

人口18万の街がなぜ美食世界一になれたのか―― スペイン サン・セバスチャンの奇跡』によれば、2012 年時点で、ミシュラン三つ星が3店、二つ星が2店、一つ星が4店を擁しており、世界一の美食の街と言われます。こうした状況にわずか 15 年ほどでなったのは、料理のオープンソース化を地域として進めたからであり、さらに競い合うためのコンテストが多数あったからだ、と指摘されています。

そうした環境を作るために意識的な努力を街全体でしていく、地域のソーシャルキャピタルを個々人が意識的に培っていくことこそが、個々が成功するための公共投資であり、そして地域全体が模倣不可能な独占的な地位を築いていくための方策であると思います。

それはたとえば、『職場の人間科学: ビッグデータで考える「理想の働き方」』で書かれていた、休憩時間を同じタイミングで取るだけでコールセンターの退社率が下がり、1500万ドル相当の節約に繋がったように、本郷のスタートアップが意識的に同じタイミングで休憩時間を取る、といった方策かもしれません。あるいは定期的にあつまる機会を作り、意識的に参加することかもしれません。色々できることはあるのだと思います。

本郷がスタートアップ、特にハードテックスタートアップにとって良い環境になれば、きっと日本の経済にとっても利するはずです。この地域を良くすれば、新しい事業が生まれて、新しい産業が生まれる。少しで意識的にもそう思ってくれる人が増えれば、今の本郷の状況を見るに、きっとそうなっていくのではないかと信じています。

Written by

The University of Tokyo, Ex-Microsoft, Visual Studio; “Nur das Leben ist glücklich, welches auf die Annehmlichkeiten der Welt verzichten kann.” — Wittgenstein

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