攻めの Keiretsu: 新製品を受容する仕組み
シリコンバレーで何故あれほど多くの新しい製品が生まれてくるのか、その理由を探したとき、『デザイン思考』や『リーンスタートアップ』といったメソッドが注目されることが昨今多いように感じます。
そうした思考法ももちろん有用なのですが、シリコンバレーや中国で多くのイノベーションが起きているように見える大きな一つの背景は「新製品の迅速な受容体制」ではないかと考えています。
その例として、特に B2B の領域を中心に、Y Combinator と清華大学 (TusStar) の仕組みを見てみます。
Y Combinator はネットワークで初期顧客を発見
たとえば Y Combinator では YC の投資先同士がお互いのプロダクトを使い合い、フィードバックし合うと言われています。同じバッチのバッチメイトだけではなく、少し先輩のスタートアップに利用してもらい、さらに利用先のスタートアップの急速な成長とともに自分たちのプロダクトも成長していくことができます。決済サービスの Stripe などは多くの YC 企業に採用されているところなどは特徴的です。
(さらにいえば、そうした繋がりは、仮に自分のスタートアップが失敗しても他のスタートアップに就職できる、というセーフティネットとして機能しているようにも見えます)
清華大学 (中国) は関係会社から初期顧客を見つける
中国にもそうした新製品の受容を早める仕組みがあるようです。ただしその形はシリコンバレーとは大きく違うように見えます。
清華大学の子会社とも言える TusHoldings は、清華大学のサイエンスパークから始まりました。最初は不動産業だったのがサイエンスパーク発のスタートアップへの投資も始め、スタートアップの自社への買収や子会社化などを行って、ホールディングスとして多数の事業領域を持つ会社へと成長してきました。
現在彼らは TusStar という仕組みを作り、スタートアップに投資すると同時に、投資先のスタートアップの製品を関連会社に使わせたり支援したりして、スタートアップを迅速に学ばせるような仕組みがあるようです。彼らは清華大学の OB のネットワークをフルに活用している点も特徴です。
今のボトルネックは「初期顧客に使ってもらう」ところ
スタートアップが成長するために必要な一連のフローを、
- 学びや洞察から新しいアイデアを閃き、
- 物を作って、
- 顧客に使ってもらって、
- 学びや洞察を得る
- 1 〜 4 を繰り返す
と考えたとき、今どこにフローを遮るボトルネックがあるでしょうか。
内外から聞く意見と個人的な印象としては、前半のほうはシリコンバレー的な考え方やメソッドが明文化されて広まりつつあることで、徐々にボトルネックが解消されつつあるように思います。
一方、今日本のスタートアップエコシステムにおいてボトルネックとなっている部分は、3 の「作ったものを使ってもらう」という部分であり、素早く初期顧客を獲得し、顧客からフィードバックを受ける部分ではないかと感じています。そして今の日本の体制のままでは圧倒的に追いつけない部分なのではないかと考えています。
(一部の中国企業などは「前例のないイノベーティブな製品を使わなければ、他社への競争優位性が保てない」と言って、日本のスタートアップの製品を積極的に採用しているようです。)
顧客がなければ企業は育ちません。逆に顧客が近くにいればその分野は伸びるように思います。たとえばイスラエルでセキュリティや先端技術のスタートアップが栄えているのは、軍事的需要が直ぐ側にあるからではないでしょうか。
攻めのための Keiretsu のつながり
上述の Y Combinator や Tus の仕組みは、かつての日本企業にあった「系列」や「財閥」的な繋がりにも似ているように思います。
日本の系列というと、株式持ち合いや互いを守るリスク回避的なつながり、そして「生産系列」や「流通系列」といったバーティカルな系列を思い出すかもしれません。
そうした旧来の系列とは別に、「お互いがイノベーティブな製品を使うことで、製作者はフィードバックと売上を得られ、利用者は生産性を向上できる」、そんなつながりが、YC などで実現されている現代的な Keiretsu のあり方のように思います。それをうまく実装できないか、というのを最近考えています。
たとえば本郷のスタートアップを見てみると、お互いの製品をお互いが使ったりしながらフィードバックを得ることに成功している企業の話を聞きます。フィードバックが得られるからといって企業として成功するわけではありませんが、そうした互助的な仕組みができあがってくれば製品へのフィードバックはより得やすくなるはずです。
ほかにもたとえば 1% for Art という、公共建築の建設費の 1% をアートに使わなければならないという仕組みがあります。近年その動きはアジアでも広がり、韓国、台湾で法制化されています。そして実際に日本人の建築家などが日本ではなく台湾で最初の作品を出したりしています。同様に1% for Startup など、設備投資の 1% をスタートアップや新製品の受容に使うことを仕組み化したりすることができないものかと考えています。
あるいは Kaggle 的に、各企業の課題を数字に落とし込めるぐらいに明確にして、それを多くのスタートアップによって解かせるようなこともありなのかもしれません。
もちろん、こうしたやり方にはリスクもあり、シリコンバレーの人ばかりに使ってもらっていると、ある種のガラパゴス的な発展してしまうかもしれません。また TusStar を見ると家父長的な仕組みのように見えますが、中国は人材流動性が高いため、深圳などを中心に今後シリコンバレー的なネットワークになっていくのかもしれません。
そんな中、新しい製品を生み出して普及させていくために、各企業や各個人がどういうつながりを作り上げていけばいいのか、そんなことを最近考えていて、いくつか実践しているので、また思考のまとめ程度に記事を書きたいと思います。