リーンスタートアップのシリーズ本を振り返る (2018)
Lean Startup Update! 2018 のセッションの補足記事です(スライド付き)
リーンスタートアップの言説を最新のものまでアップデートする、Lean Startup Update! 2018 を 12/14 に開催しました。結果的に 442 名の公開ページからの登録と、会場提供いただいたリクルート様からも 50 名程度の登録があり、500 名近い方々から注目をいただくイベントとなりました。ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
ふりかえりセッションのまとめ
私が担当したのは最初のふりかえりセッションとパネルディスカッションでした。文章が多いのでスライドよりも記事のほうが良いのかなと思い、記事にもしておきます。スライドはこちらです。
この記事では、発表資料のスライドを補足しつつ、以下の図に挙げるすべての本を簡単に紹介していきます。
どれだけ覚えてますか? リーンスタートアップの各種概念
おそらくリーンスタートアップの青本を読んだ人なら、以下のような概念はある程度説明できるのではないでしょうか。
- MVP
- ピボット
- Build-Measure-Learn ループ
- 虚栄のメトリクス
- コホート
しかしこのあたりになるとどうでしょう。
- 検証による学び
- 挑戦の要 (leap-of-faith) の価値仮説と成長仮説
- 成長のエンジン
- 革新会計 (innovation accounting)
- 継続的デプロイメント
このあたりまで他人に説明できるぐらいに覚えている人は少ないのではないかと思います。さらに以下はどうでしょうか。
- バッチサイズ
- プル
- アンドン
- 長期株式取引所
- 自律性をマネジメントする
これらはすべてリーンスタートアップの青い本に出てきていて、太字で共用されている概念です。今回読み直してみて、「結構最初からちゃんと書いているんだ…」と改めて驚いたのが Lean Startup の青本でした。
さらにいえば国内で火付け役にもなった、sllconf での講演でも、それから発展していく様々な概念に触れられています(平鍋さん訳)。
こうして忘れていた色々ものを思い出すためにも、一度復習してみよう、というのがセッションの内容でした。しかし 10 分程度しかなかったので、かなり駆け足だったこともあり、記事でも補足させていただければと思います。
なお、2015 年までのものについては、主に前回の Lean Startup Update! 2015 で触れていますので、そちらの各種資料を参照して下さい。ただこの記事でも一応軽く全部の本に触れていきます。
それでは以下から 10 冊プラスαを紹介していきます。
1.リーンスタートアップ
リーンスタートアップの『青本』と本記事では参照します。この本ではリーンスタートアップに関する基本的な概念を網羅的に解説しています。リーンスタートアップはリーンシンキングとリーンソフトウェア開発、XP と顧客開発から、というのが Eric の初出の記事には書かれてます。
読み直すと、意外と広く概念をカバーしてて、バッチサイズから The Startup Way的な「スタートアップの概念図」、長期株取引所の概念まであったりします。
ちなみに「just do it」(とにかくやってみよう)はリーンスタートアップ的ではない、と青本でも否定されています (p. 20)。「とにかくやってみよう」がリーンスタートアップだと思っている人は、今一度復習してみるといいかもしれません。
押さえておきたい:Build-Measure-Lean ループと MVP
Build-Measure-Learn の順で仮説検証のループを回していきましょう、という図。ただし計画は Lean -> Measure -> Build の順、というのを忘れがちです。
LOFA (leap-of-faith assumption) を定め、最小限の努力で Minimum Viable Product を作って、最大限の「検証による学び」を得るための指針として使えます。
なお、Eric Ries の最新刊である The Startup Way では、リーンスタートアップのリーダーにとって最も重要な問いは、
(1)何を学んだのか?
(2)どうやって知ったのか?
だと言われています。なので、(1) 学ぶことを決めて、(2) 知る方法を決めることが Build-Measure-Learn ループを回していくことではないかと思います。
しかし重要なのは BML や MVL をしているかどうか、ではなく、結果的にムダのないことをしているかどうか、というところではないかと思います。リーンという言葉に立ち戻ると、ですが…。
押さえておきたい:革新会計
売上や利益といった一般的な管理会計で測るのではなく、別の基準(革新会計)で進捗を測ってプロジェクトにアカウンタビリティを持たせる仕組みのことです。
学びのマイルストーンとして、(1) MVP を使って実験し、データを獲得してベースラインを設定して、(2) エンジンをチューニングしながら、(3) ピボット (pivot) するか辛抱する (persevere) かを決めます。
なお、虚栄の指標ではなく、行動を変える指標に注目してください。
リーンスタートアップの青本の参考資料
実践と試行錯誤を含めた内容としては Lean Startup Update! 2015 の黒田さんの資料があります。
2.Running Lean
リーンスタートアップの手法をより実践的に、順序立てて解説。薄いので渡しやすいし、内容も扱いやすい便利なものです。
仮説は反証可能に、とか、リスクの高い部分の見つけ方とか、AARRR や Unit Economics の導入とか、リーンスタートアップ周辺のノウハウを取り入れて、発展の基礎を築いた本ではないかと思います。付録の「低燃費スタートアップの作り方」も読み直すと参考になる部分がたくさんありました。
インタビューのスクリプトは微妙という話もありますが、半構造化インタビューをスタートアップに広めた功績は大きいと思ってます。
押さえておきたい:リーンキャンバス
リーンスタートアップのシリーズの中で一番使われているツールではないでしょうか。ビジネスモデルの仮説をさっと書いて検証に移ることができます。ビジネスモデルキャンバスよりもスタートアップ向けで使いやすい印象です。
ただ、リーンキャンバスは決め打ちではなく仮説です。何度も検証していくもの、というのを忘れがちなので、作って終わり、にならないように気をつけて下さい。
(番外)This is Lean
2012 年 11 月に出た本ということで、Running Lean と Lean UX の間に番外編として入れておきます。
フロー効率性とリソース効率性について語っている書籍です。フロー効率性はスループットタイムに対しての付加価値活動の総量のことで、まずはフロー効率性を高めたあとに、リソース効率性を高めて、組織のアウトプットを上げていきましょう、ということが書かれています。
スループットタイムの非効率解消のため、付加価値のない活動を削除したり(付加価値活動の時間を短くするのではなく)、プロセス上のボトルネックを解消することが大事と言われています。
なおバラツキがスループットタイムを長引かせるので注意してください。人間や顧客の需要はバラツキが大きいですよね…。
押さえておきたい:リソース効率性とフロー効率性
リソース効率を求めれば、それぞれ専門家のところに行って診療の正確性を求めるものの、最終結果が出るまでは 42 日かかっていて、フロー効率性を求めればワンストップのところに行って素早く 2 時間で診療してもらう、という図です。リソース効率は高いものの、付加価値のない「待ち時間」が多いのが左です。
押さえておきたい:プル
プロダクト作りのフローは左から右です。しかし情報の流れはニーズから「プル」されて、右から左に流れることになります。
「人が欲しがるもの」を「欲しがるときに欲しがる分」だけ作る仕組みができれば、無駄なものを作らないことになるので理想的です。
This is Lean の参考資料
詳しくは Lean Startup Update! 2018 の黒田さんのスライドで詳細に解説されています。
3. Lean UX
『デザイン思考』と『アジャイル開発』と『リーンスタートアップ』の 3 つを UX の設計や開発に用いようという、あらゆる規模の企業のデザイナー向けの本。どちらかというとデザイナの作業部分が多いので、エンジニアが読んでもいまいちかもしれません。
組織の話が最後に入ってて、「組織がボトルネックになる」というのはデザイナーさんの悩みでよく聞きます。デザイナーが組織で軽んじられてるからかもですね……(そんなときは Design Sprint とかで人を巻き込んでバリューを見せるとか…)。
押さえておきたい:13–2–1 活動カレンダー
Continuous Discovery の手法としての 3–12–1 活動。毎週木曜の 12 時に 3 人にインタビューを継続していく手法です。こういう継続的な活動は(続けるのは難しいですが)いいですよね。
参考資料
デザインスプリントは色々と関連する部分があるなと感じています。
4. UX for Lean Startup
まだ翻訳がされていない唯一の本です。
同じくリーンスタートアップの方法論をデザインに応用してみる、という本になっています。Get out of the Building したあと、どう素早く調査して、作って、検証していくか、というあたりのノウハウが多めです。Lean UX から一歩踏み込んで実践したいときに使えるかもしれませんが、今となってはあまり目新しい手法がないので、網羅感にざっと読むといいのかなと思います。
5. リーンアナリティクス
OMTM (One metric that matters: 最重要指標) を決めて、砂場に線を引く (line in the sand) ためのガイドを提供してくれる本です。特に動くターゲット設定をする line in the sand は忘れがちではないでしょうか。
この本での良いメトリクスの条件は「比較できる」「理解しやすい」「割合や比率」「行動を変える」ものです。
読み返すと新たな発見がある系の本なので、以下のビジネスの人は再読を是非お勧めしたい書籍です
- EC
- SaaS
- モバイルアプリ
- メディアサイト
- UGC (ユーザー生成コンテツ)
- Two-Sided マーケットプレイス
押さえておきたい:OMTM の表
ビジネスモデルとステージに合わせて OMTM を選ぶガイドとなります。
押さえておきたい:ライフサイクルマップ
顧客のライフサイクルを図にしたもの。抜け漏れがないか確認できるので、たまに見てみても良いのではないでしょうか。
上の図は SaaS のライフサイクルとメトリクスです。
リーンアナリティクスの参考資料
Lean Startup Update! 2015 の角さん(翻訳者)のスライドに内容がよくまとまっています。
6. リーン顧客開発
製品開発ではなく顧客開発側のプラクティスを、顧客インタビュー中心に解説している本です。
インタビューそのものだけでなく、それをどうメモってチームに展開するかなど、役立つ Tips が盛りだくさん。顧客インタビューするなら、これと『ユーザーインタビューをはじめよう』、樽本さんの本などが良いのではないかなと思います。
章末の『Key Takeaways』だけでもたまに読み直すと勉強になります。リーンキャンバスでいうとこのあたりをメインにカバーしています。
押さえておきたい:ベーシックな顧客開発の質問
書籍に載っている以下のような質問をベースに、自分たちの基本質問を設計していくと良いのではないかと思います。
- 今現在 ○○ (※ job や problem) をどうしているか教えて下さい
- ○○ を終わらせるために使っているツールや製品、アプリや裏技などがあれば教えて下さい
- もし魔法の杖があって何でもできるとしたら、何をしたいと思いますか? 可能かどうかはさておいて、なんでも言ってください
- 最後にあなたが○○をしたとき、それをこなす直前に何をしていましたか? また○○を終わらせたとき、何をしましたか?
- ○○について、その他に私が聞くべきことはありますか?
押さえておきたい:60秒の沈黙
最初の質問に返答してもらうまで、60 秒ぐらいの沈黙に耐えるテクニック。インタビューする人は喋ってしまいがちですが、ちゃんとインタビュー相手に喋ってもらうようにするには、こうしたテクニックをうまく使っていく必要があります。
リーン顧客開発の参考資料
Lean Startup Update! 2015 のスライドも参考にして下さい。
7. リーンブランディング
リーンスタートアップの手法をブランディングに応用しよう、という本。「リーン・ブランドとは、仮説を継続的に検証した結果である」(p. 144) が本書の位置づけを端的に表しているのではないでしょうか。
ブランドトラクションを計測しながら、ブランドマーケットフィットの達成を目指す手法がメインです。細かい手法に結構ページを割いているので、エンジニアリングの経験のないマーケター初心者向けかなという印象でした。
押さえておきたい:ブランド学習ログ
Validation Board のブランド版的な位置づけでしょうか。
8. リーンエンタープライズ
リーンスタートアップをエンタープライズで活用しよう、というだけでなく、組織への導入、文化、脱予算の話、そしてカンバンと流れの管理から DevOps、継続的デリバリ、バリューストリームマッピング、実験を安全に失敗させる手法まで広くカバーしてて、とりあえずこれ読めばいいんじゃないか、という本です。これだけで実践するのは難しいと思いますが、概念を振り返るときに定期的に見直したい一冊です。
手法オタク的な感じもあり、内容盛りだくさんのため、初見の人にこれを渡して理解してくれるのだろうか…という不安はあります。
押さえておきたい:オプションの原則
オプションは将来何かするための権利。「意思決定を遅らせる」ことができます。新規事業への投資はある意味オプションを買っているのかもしれませんね(リアルオプション懐かしい…)。
押さえておきたい:OODA ループ
Observe, Orient, Decide, Act の略。不確実な環境での行動方法です。PDCA はプロセス改善向け。上述のオプションと遅延コストを合わせて、最終責任時点まで、決定を「遅らせる」手法として使えます。
少し後で出てくるのでここで紹介しておきます。
押さえておきたい:改善のカタと継続的改善
角さんの発表資料からですが、結局継続的に改善していかなきゃいけないですよね、というお話です。次のリーンスタートアップ成長戦略にもつながってくる話なのでここで差し込んでおきます。
リーンエンタープライズの参考資料
詳しくは翻訳者である角さんの、Lean Startup Update! 2018 のスライドをご覧ください。
9. リーンスタートアップ成長戦略
新規事業の成長に TOC の考え方を応用する本です。TOC を使うところが新しくも原点回帰している感じがします。
トラクションを最重要指標に置きながら、再現性のある形で顧客スループットが生み出される『顧客ファクトリー』と、成長の指針となる『トラクションモデル』を作ります。
それらをベースに、TOC 的な制約 (市場制約、物理制約、方針制約) に対して (1) 学習し、(2) 利用し、(3) 強化する、という行動を起こしていくことで成長する、という綺麗な見通しが立てられます。なおリーンスタートアップ全般である「学び」を重視する視点と異なり、顧客スループットの増加を重視します。以下は本書からの引用です。
学習を計測可能な結果(顧客スループットの増加)に変換できない限り、何も進捗はしていません。単に何かを調べているだけです。インタビューに数や質を計測するのではなく、顧客を生み出すためのマクロな目標(あるいはそれに近いもの)に注目しましょう。
押さえておきたい:顧客ファクトリー
幸せな顧客を生み出すための再現性のあるシステムであり、ビジネスの見方です。工場をメタファにすると、TOC の考え方(ボトルネックの扱い等)を応用できるようになります。また継続的改善についての方針も立てやすくなるように思います。
押さえておきたい:トラクションモデル
10 倍ルールを基準としたマクロな視点から、3ヶ月、2年、3年で到達するべき各フェーズ (x/x Fit) の成功基準を顧客スループット(トラクション)をベースに決めて、行動につながる基準を設定し、現状を追跡していくためのモデルです。革新会計と財務会計のブリッジをする役目も持ちます。
角さんの以下の図が具体的な数字付きで分かりやすいのかなと思います。
押さえておきたい OODA と GO LEAN
本書で紹介されている GO LEAN は以下の略になります。それぞれの頭文字を取って GO LEAN です。
- 目標 (Goal)
- 観察と方向付け (Observe and Orient)
- 学習・利用・強化 (Learn, Leverage, or Lift)
- 実験 (Experiment)
- 分析 (Analyze)
- 次のアクション (Next Actions)
リーンスタートアップ成長戦略の「GO LEAN」は OODA との対比で見え見ると分かりやすいのではないかと思います。OODA は以下のとおりです。
- 観察 (Observe)
- 情勢判断 (Orient)
- 意思決定 (Decide)
- 行動 (Act)
こうしてみると、OODA より GO LEAN のほうが包括的に見えます(そのため少し分かりづらい…)。また「学習・利用・強化 (Learn, Leverage, or Lift)」の部分で TOC 的な考え方を、「実験 (Experiment)、分析 (Analyze)」の部分でリーンスタートアップ的な考え方を包含しているように見えます。
なので「これからの時代は PDCA ではなく OODA だ!」と言われたときに「これからの時代は OODA ではなく GO LEAN というのもあるんですよ」と言い返せるかもしれません。(実際はスコープによって使い分けるのがいいと思います)
リーンスタートアップ成長戦略の参考資料
翻訳者の角さんが Lean Startup Update! 2018 で発表されたスライドの後半がリーンスタートアップ成長戦略の話になっています。
(番外)ザ・ゴール / コミック版
ここまで TOC という言葉を繰り返してきましたが、もともとはザ・ゴールで提唱された考え方です。この TOC を多くの人に理解してもらいたいときに便利なマンガがこちらの本です。「リーンスタートアップ成長戦略」の前に読んでおくといいかもしれません。
This is Lean の前に「バランスのとれた向上に近づくほど、工場は倒産に近づく」からの、ばらつき(統計的変動)とゆとりについての解説や、リソースの使用と活用についての違いも参照したいところです。
押さえておきたい:スループット、在庫、業務費用
スループットは売上高から真の変動費を引いたもの。スループットは作る部分だけではなく「販売」(売上高)までをカバーしているので注意してください。在庫は投資すべて、業務費用は在庫をスループットに変えるための費用。TOC はスループットを最大化するためのもの、という位置づけです。
押さえておきたい:ドラム、バッファ、ロープ
ドラムはボトルネックのペースに合わせて合図を出し、ロープはボトルネックにリソース投入を同期させ、バッファはボトルネックの前に設けて、何かあってもボトルネックの効率を落とさないようにしておくものです。
押さえておきたい:ボトルネック
与えられた仕事かそれ以下の処理能力のところ。鎖の比喩でいえば、鎖全体の強度を決める、最も弱いところ。具体的には在庫が溜まるところであることが多いです。悪ではなく「現実」であるという認識をした上で、ボトルネックを活用していく必要があります。リーンスタートアップ成長戦略では主に物理制約、方針制約、市場制約の 3 つであると言われています。
押さえておきたい:バッチサイズ
プロセスに乗せる一回あたりのバッチの大きさ。セットアップタイム等が十分短いのであれば、バッチサイズを小さくしてもいいかもしれませんし、早期に問題を発見するためにはバッチサイズを小さくしたほうが良いとされています。
特に「人が欲しがるものを作れているかどうか」が分からない状況にいるのが初期のスタートアップなので、バッチサイズを小さめにして仕事をしていくのが良いということになります。そのための MVP と考えると色々つながってくるのではないでしょうか。
ザ・ゴールの参考資料
Lean Startup Update! 2015 の河合さんの資料は、リーンスタートアップと OC とを相互参照しながら理解を深めてくれる資料になります。リーンスタートアップ成長戦略を読む前にも是非どうぞ。
(番外)The Leader’s Guide
Eric Ries が書いた Kickstarter 限定販売の本です。
前半は Lean Startup をまとめつつ、一歩進んだ具体的な策を提案しています。例えば明日ローンチするならどの機能を削る?とか、leap-of-faith を書き出すとかいった細かい改善や「どうやってリーン的な手法をチームメイトに教えるか」「ビジョンをどう伝えるか」などもカバーしています。
後半は起業家的マネジメントについて。信頼、人、お金の 3 つを軸に、自由の島も話や、革新会計のレベル分け、組織や文化、LS の組織導入の話。The Startup Way とほぼ同じです。リーンスタートアップに関する Myth を挙げて、それぞれを否定していくあたりは、リーンスタートアップの組織導入の際に立ちはだかる各種勘違いを解消するのに便利かもしれません。
10. The Startup Way
今回のイベントのきっかけとなった、Eric Ries の最新刊です。
大企業は一般的なマネジメントと起業家的なマネジメントの両方を使い分け、アカウンタビリティをベースにした起業家機能を各事業部門に持たせ、VC を模した計量資金調達 (metered funding) のプロセスを用いながら新規事業に投資して、ゲートキーパー(法務や財務、人事等)をも顧客志向にすることで継続的なトランスフォメーションと成長を遂げる…!ということで、企業幹部向けの組織話が中心です。
理想ですけど実行が難しいよね、という印象があります。特に追加投資の意思決定をするボードの優秀さが弱点のような…。
押さえておきたい:計量資金調達
VC のように、段階的に投資していくモデルです。日本ではステージゲート方式での新規事業などで採用されている印象があります。
The Startup Way の参考資料
詳しくは黒田さんのまとめ記事をぜひ参照して下さい。
まとめ
とりあえずこの 3 年の間のリーンスタートアップシリーズで買うとしたら、以下の二冊をお勧めします。
「不確実性を探索して機会を見つける」(リーンエンタープライズ 4章)ために新規事業の試みがあるとすると、市場の不確実性が時代とともに変わることで、最適な方法論も変わっていくはずです。だから、リーンスタートアップという言説に含まれる方法論や強調点の移り変わりを見ていくことで、逆に今自分たちが置かれている状況や不確実性の移り変わりを逆から見ることができるかもしれないな、と思いながらシリーズを再読していました。
そうした目線で見たとき、この数年でのリーンスタートアップを取り巻く環境の変化として、
- スタートアップから新規事業全般へ
(デザイン思考、ハードウェア、The Startup Way、xTech…) - アイデアから意思決定や組織にスコープが広がる
(システム全体、組織変革、計量資金調達、ボードの重要性) - リーンだけでなくアンチリーンな事業も選択肢に
(ハードウェア、ハードテック、潤沢なハードキャピタル) - 自前の新規事業だけでなく、新規事業のポートフォリオ管理へ
(新規事業、M&A、CVC による出資、提携、ホライゾンモデル、オープンイノベーション…)
などがあったのかなと感じています。
また方法論的には、自分の興味関心の変化かもしれませんが、
- 価値の「流れ」の再考へ
(カンバン、DevOps、バリューストリーム、顧客ファクトリー、Customer Journey…) - 活動そのものから「つながり」へ
(組織、コミュニティ、オープンイノベーション、バリューチェーン、信用、ネットワーク効果、観光客の哲学) - 見えるお金から「見えないお金」の注目へ
(遅延コスト、オプショナリティ、流動性、機会損失、サンクコスト、行動経済学、時間)
などを感じています。
そしてそうした不確実性に対する対処として、個人的には、
- ハードキャピタル(資本)の使い方
→ 新規事業を育てるだけではなく、スタートアップを買って時間を買うという選択肢も? - ソフトキャピタル(人材、組織)の育て方と 人のリソースを上げることが競争力の源泉に
→ 大学ができることがあればいいなぁと
といったことを思いました。