平野正雄『経営の針路』はグローバル、キャピタル、デジタルでこの 30 年が整理されたお勧め本

McKinsey の日本支社長やカーライル共同代表を務めた平野正雄さん初の著書『経営の針路』が大変良い本だったので紹介しておきます。この本は、ポスト冷戦期、つまり1990 年前後から今までの約 30 年のマクロな経営環境を変化を、

  1. グローバル
  2. キャピタル
  3. デジタル

という3つの軸で大変明快に整理されています。

こうして整理されたマクロなビューは、ミクロな個々の企業やスタートアップの戦略にもヒントを与えてくれるものではないかと思います(実際、この数十年の間に大きく成長したソフトバンクやユニクロなどの国内企業は、これらの大きなトレンドをうまく捉えていたように思えます)。また事業会社の事業投資会社化やその条件、超国家的な存在となった企業の自覚するべき社会倫理性など、いくつかのこれからの経営モデルを提案してくれているのも参考になります。

平野さんのインタビューは平野正雄氏×伊賀泰代氏「“モノつくり信仰”が日本企業を戦略不在にした」などをご覧いただくとして、以下では書籍の中からグローバルとキャピタルの二つの観点について整理して、その上で多少なりとも自分が役立てるかもしれない点について自分の頭の整理をしたいと思います。

グローバルの変化

  • 事業がグローバルに広がることで、各国の為替や災害、政治のリスクを引き受けることになり、リスク管理や財務的体力が必須に
  • 成熟国同士の取引から、新興国での事業展開が加わり、海外戦略はより一層複雑化
  • サプライチェーンのオープン化だけではなく、産業のバリューチェーンの分解と人材の流動化
  • サービスの現地化、製品の標準化や業務の集約化、グローバルな競争優位性を確保するためのコンピテンシーの強化(選択と集中)が重要に
  • グローバル化による生産地の移転による雇用の国外流出や、国家間の税制の差異を活用した租税回避などで、企業と国家との利益の乖離が進む。
  • 国家ではなく地域という単位での優位性の発揮が顕著に

キャピタルの変化

  • 人口動態の高齢化で資金量が増大した年金や保険などの機関投資家による債券(主に国債)購入が盛んに
  • 金融技術のイノベーションと金融のビジネスモデルの革新が起こる(特に証券化技術とデリバティブの発達)
  • 資産運用手法の多様化を求める機関投資家たちと、ジャンクボンドの開発で LBO が隆盛し、PEやバイアウトファンドが台頭
  • 金融技術の発達と、グローバル化とデジタル化による企業の海外展開の加速と事業の組み換えと、株主価値経営の浸透による M&A の活性化(資本を活用した M&A などの企業戦略の隆盛と、企業経営のダイナミズムの増加)
  • M&A による事業戦略と資本政策の一体化(海外企業買収や技術系企業への出資などの、事業に連動した資本政策の重要性の増加)
  • 株主価値経営の浸透による、資本政策を駆使したコーポレートストラテジーの発達と、経営と資本政策の緊密な連携(時間と資本の二つのコスト意識の徹底)
  • 巨額の金融資本(ハードキャピタル)の投下が競争力向上に繋がるのではなく、人材や商品化スキル、企業文化などのソフトキャピタルの量と質が企業競争力向上の最重要命題に
  • さらに自社のソフトキャピタルを他社や海外に移転する能力の体制を確保することが重要に

デジタルは省きます。

その他、未来予測として世界的な資本の過剰に拍車がかかるおっぽうで、世界経済の成熟化に伴い徐々に需要は減退するので、資本の希少性は薄れて投資からのリターンを獲得することが一層困難になる、行政を含むサービスの生産コストを下げることが重要など、未来予測

大学やスタートアップにできること

こうした状況を踏まえて、最近考えていることをメモっておきます。仮説段階なのでまだまだ荒いです…。

  • ハードキャピタル(金融資本)やソフトキャピタル(組織や人材)と並行して、ソーシャルキャピタルを企業内の人材に貯めることが、スタートアップや新規事業において新たな鍵になるのではないか。人材流動性がかつてボストンとシリコンバレーの明暗を分けたように。日本は企業への就職後の雇用の流動性があまりなく、また諸外国には存在する教会やボランティア団体といった企業外での社会的活動も薄く、系列ではない企業間の連携が比較的行われづらい。その点を改善するためにも、大学は就職後の人材育成の機能を提供するとともに、産業を超えた個々の人材のソーシャルキャピタル構築を支援できるのではないか (海外 MBA や大学院が持っているような、社会人経験者のソーシャルキャピタル蓄積機能)。
  • 大型の M&A や PMI はビジネスとなり主に PE などでノウハウが貯まる一方で、相当のプレミアムを付けないと買えない状態になっており、スタートアップの M&A や PMI ノウハウはまだ国内で十分とは言えない。このノウハウについて中立的な立場で旗を振って共有を進めることが、国内企業のハードキャピタルを有効に使った経営戦略、ひいては新産業創出に繋がり、日本経済全体に寄与するのではないか。
  • グローバル化による為替や地政学における変動リスクを鑑みた時、企業は未来予測や財務体質を強化するだけではなく、変動へ俊敏に対応できるような方向性を目指す可能性が十分に存在する。また株主価値経営を意識する際に事業や長期 R&D をコンパクトに絞る必要が出てくるが、それだけではなく外部の成長機会を広く模索する際にスタートアップへの出資や買収といった方法をうまく使えるようになるのではないか。特にスタートアップは、大企業とは異なり、顧客(需要)リスクとビジネスモデルのリスクの高い、主に新しい領域にアプローチできる事業体であり、大企業の事業に対して補完的である。また目利きができれば比較的プレミアムが少ない段階で買収できる。当然、国外スタートアップへの出資や買収を狙うのも有効であるが、国内のスタートアップのほうが情報格差を活かすことができ、スケーリングの部分でも既存企業が価値を発揮することができるので、国内スタートアップへの出資や買収も十分に選択肢として考えられる。
  • テクノロジを見てみると、長期の R&D を企業が実施できなくなりつつあり、大学での研究成果に期待が寄せられている。また近年、一つの産業内での技術の発展に陰りが見え始め、これまでにない複合的な技術の組み合わせが求められている。大学は産業を超えた多様な技術と人材が集まる場でもあり、良いアイデアの発想に必要な「領域の遠さ」のある稀な場所として機能しうるのではないか。
  • 大学に属する研究者は国際的なネットワークを持っており、また大学は留学生を含めた国際的な人材を持つ。事業のグローバル展開を考える上で、こうした人材との交流を持つことは企業やスタートアップにとっても有意義でないか。

下の図は私のメモであり、書籍の内容と少し異なる部分があります。

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The University of Tokyo, Ex-Microsoft, Visual Studio; “Nur das Leben ist glücklich, welches auf die Annehmlichkeiten der Welt verzichten kann.” — Wittgenstein

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