技術トレンドの未来予測と二次影響

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Bill Gates は「ほとんどの人は 1 年でできることを過大評価し、10 年でできることを過小評価する」と言ったそうです。

この原因は、人は10 年でなされる技術的な進歩を過小評価するということだけではなく、一つの技術進歩が引き起こす二次影響について過小評価してしまうことにも起因するように思えます。

たとえば二次影響の一つの例として、「自律走行車は、テック系企業や製造業よりも、不動産業や小売業で億万長者を生み出すだろう」と言われたらどう思われるでしょうか。そんんなまさか、と思われる方もいるかもしれませんが、過去の事例を見るとそれは十分に起こりえるように思います。

過去を振り返ってみると、二十世紀初頭、T型フォードの急激な売れ行きから、「自家用車がすべての家庭に行き渡るだろう」ということを予想していた人は多かったのではないかと想像します。しかし「車の普及によってウォルマートのような郊外大型店舗の小売店が、事業として成長すること」を当時予想できた人はほとんどいなかったのではないでしょうか。

また明治時代の日本で、鉄道の敷設によって交通の便がよくなることを想像していた人は多かったでしょう。しかし鉄道網が敷かれることで、初詣という文化がわずかな期間で成立するようなことを想像した人もほとんどいなかったのではないかと思います。

2018 年の予想から 20xx 年の夢想をする

新年があけて、2018 年の予測が色々な記事で見るようになってきました。その中で様々な技術トレンドの予測がされていますが、一つの技術の進歩が引き起こす二次影響にまで触れているものは少ないように思います。

しかしスタートアップ的な目線で言えば、「2018 年のトレンド予測」を更に超えて、それが与える二次影響のほうを考えてみることが重要な考え方なのかもしれません。

そうした二次影響について、a16z の Ben Evans は先日の a16z Conference や昨年の記事などで触れています。

そこで様々な 2018 年の未来予測の記事をより役立てるために、彼の昨年の記事をベースに、二次影響の見方の例を見ていきたいと思います。

例:自律走行車

限界費用ゼロ社会』のリフキンによれば、コミュニケーション、エネルギー、輸送のテクノロジーの進歩がインフラを形成するとともに経済の構成を変えると指摘しています。

その中の「輸送」の領域でホットな技術的な話題は「自律走行車」でしょう。この数年であるレベルまでは実現されるだろう、と様々な識者が発言しています。ここではさらにその予測を超えて二次影響を考えるために、Ben Evans が提示する興味深いデータを幾つか紹介します。

  • 事故:2015 年の米国では 1,300 万件の衝突事故が起こっており、240 万人の人が怪我をしていて、35,000 人が死亡しており、事故の 90% はドライバーのミスから起こっている。自律走行のレベル 3 でもこれらの事故は大幅に減ると予想される。
  • 政府:交通事故による公共物の毀損や量、緊急用サービス、法務費用、渋滞などで米国政府は年間 2,400 億ドル(約 27 兆円)のコストを抱えている。
  • 駐車場:ロサンゼルスの法人の土地の 14% は駐車場に使われていて、調査によれば政府しての駐車場はアパートメント単位での建築コストを18%上昇させる。自律走行車はこの駐車場を削減する。
  • 都市:街の中心部の駐車場がなくなることで、土地の使い方も変わる。
  • 家:また個々人の家の駐車場も削減される。
  • 小売:ウォルマートのような郊外立地の小売店は、郊外ならではの土地の安さと輸送コスト、人々の運転や駐車のコストをアービトラージ(裁定取引)していたの
  • 利便性:駐車場まで行かずに、スーパーの目の前で自律走行車が人を降ろしてくれるので、数分の時間の削減になる。
  • 渋滞:現在はちょっとした速度の変動により渋滞が発生するけれど(以下の動画を参照)、コンピュータによってコントロールされることで渋滞が減少する。また渋滞の 3 番目の原因である事故も減る。
  • 交通機関:渋滞が少なくなることで、バスが定刻通りに運行できるようになり、魅力度が高まる。
  • 雇用:US では現在長距離トラックドライバーの平均年齢が 49 歳で、毎年 50,000 人のドライバーが退職している。Level 4 以降の話かもしれないが、長距離ドライブがやりやすくなることでその職の魅力度は上がるだろう。
  • カメラ:街の中を走る車にすべてカメラが付くことで、現在の監視カメラ以上にカバレッジが広がる

さらに保険、都市計画、運転中の時間で行う娯楽なども影響を受けると想定され、一つの領域の大きな変化は様々な領域のビジネスが大きく可能性になりうる、という良い例なのかなと思います。

こうした背景から、「自律走行車は、テック系企業や製造業よりも、不動産業や小売業で億万長者を生み出すだろう」と Ben Evans は発言したようです。

技術の未来予測とその二次影響でのスタートアップの可能性

Y Combinator の Sam Altman は、長いスパンで考えることがスタートアップにとっての唯一のアービトラージの機会だと言っています。また昨年の a16z のカンファレンスでも、a16z の人たちはしきりに「スタートアップは長期的なスパンで考えるように」と強調していた、と聞いています。これは短期的な急成長を目指すスタートアップにはある意味逆説的なように聞こえます。

たとえば大企業の経営陣は投資家からのプレッシャーがあるため長期的に物事を考えることができないから、そこにチャンスがありそうだ、とは言えそうです。

そしてそれに加えて、技術が普及したその先の二次影響を考えることが、(周りに馬鹿にされながらも)小さく始まるスタートアップの機会になりうるから、とも考えられように思います。

この十年の例:スマートフォン

過去のわずかな数年を振り返ってみても、たとえばスマートフォンが最初に出た頃は、主な利用用途がメールチェック、株価チェック、天気チェックだと思われていました(今の Alexa や Google Home の利用用途と似ています)。

しかしスマートフォンが広がるに連れて、ライドシェアリングや写真、オンデマンドデリバリー、モバイル広告にまでその可能性は広がりました。先の初詣の話と被りますが、近年のハロウィンの日本での急激な普及もスマートフォンによる仮装写真のシェアなどの影響が大きかったのではという指摘もあります。

Steven Johnsonは『How We Got to Now』で他にもそうした例を挙げてますが、一つの技術的な変化は様々な二次影響や変化をもたらしており、おそらく将来の一つの大きな技術の変化から、様々なビジネスチャンスが生まれてくることは間違いないでしょう。

予想がつかない大きな二次影響に対応するための「スタートアップというオプション」

ベンチャーキャピタリストの考え方の根底には Babe Ruth Effect があることが指摘されています。これは、投資が当たったときの Magnitude と投資の成功率の Frequency でいえば、Magnitude のほうが重要である、という考え方です。

そしてこの考え方は投資家だけではなく、技術的な変化を考える技術者やスタートアップにとっても、特定のテクノロジの Magnitude が大きく当たったときにどのような二次影響が起こるのかを想像することが重要だ、ということも示唆しているのではないかと思います。

大企業にとってはスタートアップがオプションを広げる

スタートアップは技術進歩の二次影響を考えて、小さく事業を始めることが比較的簡単にできるように思います。「仮に技術が実現したという夢物語」のさらに次の夢物語なので、現在の多くの人にとってはバカバカしく見えるからこそ、スタートアップ向きだともいえます。

一方、大企業の立場に立ってみれば、投資家が同意するようなメインストリームの技術の変化には大手を振って対応できますが、二次影響に関して大きく賭けることは説明責任がある中ではしづらいように見えます。また二次影響の可能性の数も多く、しかも意外なところからやってくるため、自社ですべてをカバーすることは難しいはずです。

だからこそ、そうした二次影響をカバーするようなスタートアップに対して出資や提携、支援などをすることで、大企業にとってはスタートアップが R&D や経営戦略上のオプションを持つことができるのではないかと思います。

たとえば初期段階のスタートアップと付き合うというコストを払うことで、うまくいきそうかどうかの情報を早めに察知することができ、競合より早期に買収するなどの選択肢が取れます。つまりスタートアップと付き合うというコストの支払いは、そうしたオプションを購入するのと同様だと考えると、少しすっきりするように思います。これが『経営の針路』で指摘された事業会社の事業投資会社化の一面ではないかと考えています。

そうして日本でも R&D や経営戦略上のある種の「オプション」としてスタートアップとの出資や提携を見ることで、大企業とスタートアップ両者にとって良い関係性が築いていけるのではないでしょうか。

Google や Facebook は Android/Youtube や Instagram/Whatsapp の買収などもあり、顧客のスマートフォンへのシフトにうまく対応することができました。もし彼らがスマホシフトへの対応を失敗していたら、「Web の時代の企業」の失敗例として挙がっていたかもしれません。しかし彼らはうまくそれをやってのけ、買収されたスタートアップにとっても更なる成長の機会が与えられました。

そうした大企業とスタートアップの連携についての知見を深めることが、きっと日本の産業全体にも利するはずだと考えています。そこで日本での可能性を模索するために、1/12 には以下のようなイベントを実施したいと思っています。ご興味あればご参加ください。

補足

ちなみに予測といえばテトロックの『超予測力』は予測勝率の frequency を上げるためにとても有用な書籍だと思います。

  1. 努力が報われそうな質問に集中してトリアージする
  2. 手に負えないように見える問題は、手に負えるサブ問題に分解する(e.g. フェルミ推定)
  3. 外側と内側の視点の適度なバランスを保つ
  4. エビデンスに対する仮称反応と過剰反応を避ける
  5. どんな問題でも自らと対立する見解を考える
  6. 問題に応じて不確実性はできるだけ細かく予測する
  7. 自信過少と自信過剰、慎重さと決断力の適度なバランスを見つける
  8. 失敗したときは原因を検証する。ただし後知恵バイアスには用心
  9. 仲間の最良の部分を引き出し、自分の最良の部分を引き出してもらう
  10. ミスをバランスよくかわして予測の自転車を乗りこなす
  11. 心得を絶対視しない

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(追記)2018 年からメルマガを始めてみました。

Written by

The University of Tokyo, Ex-Microsoft, Visual Studio; “Nur das Leben ist glücklich, welches auf die Annehmlichkeiten der Welt verzichten kann.” — Wittgenstein

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