FoundX のビジョンに込めた思い: Factory of Innovation and Association

Taka Umada
8 min readFeb 24, 2019

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FoundX のビジョンは「Factory of Innovation and Association」と定めています。

本稿では今回のビジョンを定めた背景を解説します。

Factory

Factory (工場) という言葉には以下のような意味を込めています。

  • 再現可能な方程式を持っている
  • オペレーションの効率化によるスループットの最大化ができている
  • 安定的なサプライチェーン(資源、技術、人材)を持っている

こうした条件を満たし、次々にイノベーションとアソシエーションを作っていくようなシステムや環境を作り上げる、というのが今回のビジョンに込めた思いです。

また、FoundX のスタッフ向けのバリューとして、Engineering という言葉を入れています。このエンジニアリングという言葉は、単に技術というよりももう少し広い言葉(数学と自然科学を基礎とし、ときには人文科学・社会科学の知見を用いて、公共の安全、健康、福祉のために有用な事物や快適な環境を構築すること)として使いたいとは思っています。

ただその一方で一般的なエンジニアリングという言葉と Factory という言葉は相性が良く、そして生産プロセスを洗練させていくという意味も出てくると感じたため、Factory という言葉を採用しています。また Factory という言葉を使えば、リーンなどの考え方との相性も良いと考えました。

詳しい内容について、以下の二つに分けて解説します。

  1. Factory of Innovation
  2. Factory of Association

Factory of Innovation

スタートアップは何かしらのイノベーションを持って、市場に対してアプローチしています。そうしたスタートアップのイノベーションを可能にして、それを広げていく手伝いをすることが私たちのミッションです。私たち FoundX からは、そうしたイノベーションを持つスタートアップが次々と、まるで生まれてくる将来をイメージしています。

なので、Factory of Innovation として私たちがやるべきことは以下のようなことだと考えています。

  • イノベーションに関する再現可能な方程式を持っている
  • オペレーションの効率化によるスループットの最大化ができている
  • 安定的なサプライチェーン(資源、技術、人材)を持っている

イノベーションは工場のように再現可能?

もちろん、イノベーションが再現可能かというと、そんなことはありません。これまでにないものだからこそイノベーションと呼ばれますし、もし再現可能な方法論があるのであれば、予測可能なもののはずで、それはイノベーションではありません。だから私たちが完全な方法論を作り上げるのは不可能だと思います。そして実際、 FoundX に入るスタートアップにその方法論を伝えたとしても、何度も失敗するはずです。

ただ、完全に再現可能なイノベーションの起こし方ではなく、イノベーションが起こる確率を上げるために、その方法を漸進的に改善していくことは可能だと思っています。それは Y Combinator がこれまでやってきたような様々なノウハウの蓄積や、トヨタがこれまで繰り返しカイゼンによって、です。

そして起業家たちが何度でも失敗することを許容して、挑戦し続けられる仕組みを作り上げることができれば、結果的に成功したイノベーションを次々に生むことができるはずです。結果として、抽象度を高くして見てみれば、次々にイノベーションが生まれていくように見えるはずです。実際、工場でもいくつもの失敗製品が出るものですが、品質チェックなどを経て、結果としては生産に成功したものばかりが生まれてきます。

私たちは、そうした広い意味での工場、そして広い意味での方法論を磨き上げていく必要があります。

またアントレプレナー精神あふれる人材やアイデアを安定的に入手可能にしておき、社会課題という需要に対して、適切な供給ができるような状態を作り上げる必要があります。そのためには広い教育や啓蒙活動などの充実も必要になってきます。

かつ、イノベーションは、供給があるだけではイノベーションとは言えません。需要と初めてマッチして、初めてイノベーションということができます。

なので、理想的な Factory of Innovation は以下の条件も満たすものだと思っています。

  • 現在もしくは将来の大きな需要(社会課題)のプルに合わせて、柔軟な調整ができる

こうしたシステムや環境を作り上げていくためには、

  • イノベーションに関する研究や教育
  • エンジニアリングによる効率的な規模拡大と最適化
  • 日々の改善と社会のニーズによる調整
  • そこで働く個人へのエンパワメント

が必要だと考えています。

難しいことだとは思いますが、こうしたイノベーションの工場を作り上げることができれば、持続的な経済成長と持続的な社会、ひいてはひらかれた社会を実現することができるのではと考えています。

Factory of Association

Association という言葉が示すものは今回はスタートアップです。Association という言葉の解説は FoundX でのアソシエーション / Association をご覧ください。

この Factory of Association という言葉で伝えたいことは、

  • スタートアップというアソシエーションの設立を助ける
  • 優れたアソシエーションを作るための再現可能な方程式を持っている
  • 優れたアソシエーションを効率よく作ることができている

といった内容です。

単なる Factory of Innovation だけであれば、大企業の既存のイノベーションも支援することになります。しかし Association の工場、といったときに、そのスコープは新たに作るアソシエーション、つまりスタートアップというイメージに近づくと考えました。

そして高収益なスタートアップを作り出すだけではなく、その先のスコープも見据えた言葉にしたいと考えていました。

たとえば、FoundX で支援したスタートアップがブラック企業になることを、私たちは決して望んでいません。むしろ FoundX が支援したスタートアップの経営者やその会社で働く人たちが、私たちのミッションである「ゆとり」を十分に持てるような、そんなスタートアップを支援していきたいと思っています。

そしてスタートアップで働く人々が、望みさえすれば労働を通して社会に役立つ意味や誇りを持つことができ、そしてスタートアップという特定のミッションや目的を持つアソシエーションの一員となることができる、そんなスタートアップを生んでいければと考えています。

つまり、FoundX は「良い組織を生み出せる組織」にしていければと思っています。

そのために、私たちは良い組織を作り続けるための良い Factory になる必要があります。なので、Google をはじめとした、人事的に先進的な取り組みをしている会社のやり方を初期から FoundX でも採用し、ある種スタートアップの見本となるように私たち自身が行動しようと考えました。そうした自分たちへの縛りを入れる意味でも、イノベーションだけではなく、ちゃんと優れたアソシエーションを生んでいくんだ、というビジョンをここでは入れたつもりです。

イノベーションを興してどれだけ経済成長を遂げられたとしても、そこで働く多くの人たちが不幸になるようでは意味がありません。会社は人生の多くの時間を使う場所だからこそ、良い会社を次々に生んでいくことが重要だと考えています。

なお、良い組織を作ることだけを目指すのはできないと考えています。そのアソシエーションで多くの人がゆとりを享受するためにも、アソシエーションの一つの中心には良い製品、そしてイノベーションがあるはずです。だから私たちは今回のプログラムを通して、良いイノベーションと良いアソシエーションを両輪とした、優れたスタートアップが生まれることを支援していきたいと思っています。

まとめ

アクセラレータやインキュベータはある意味 meta-company です。そうした意味で、スタートアップにとってのある種の模範となるような組織になっていければと思っています。

こうした思いで設定したのが Factory of Innovation and Association です。そのイメージが少しでも伝わるよう、この文章の改訂を続けていければと思います。

なお、このビジョンは私たちがどうありたいかを定めたもので、社会の姿を定めたものではありません。このビジョンはミッションに比べれば変わる可能性が高いと考えていますが、まずは仮説としてこのビジョンを掲げたうえで始めたいと考えています。

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Taka Umada

The University of Tokyo, Ex-Microsoft, Visual Studio; “Nur das Leben ist glücklich, welches auf die Annehmlichkeiten der Welt verzichten kann.” — Wittgenstein