『Deep Tech 起業ゼミ』で次世代のスタートアップを

Taka Umada
8 min readJul 15, 2022

この度、Deep Tech の領域でスタートアップを考えている方を対象としたコミュニティプログラム『Deep Tech 起業ゼミ』を始めることになりました。

今回の Deep Tech 起業ゼミは、主に以下のような方々を対象としています。

  • Deep Tech 領域でのスタートアップについて興味はあるが、どうすればよいのか分からない
  • Deep Tech 領域での起業志望者の仲間と出会いたい
  • Deep Tech 領域でのアイデアを磨きたい

ゼミのような形式で、いくつかの課題に一緒に取り組みながら、アイデアの探索を進めていければと思っています。

ご興味ある方は是非ご応募ください。応募条件はこちらのページに記載しています。これは東京大学 FoundX の一つのプログラムとなっています。

以下ではなぜこのような取り組みを始めるのかについてお話しします。

背景 — なぜ Deep Tech スタートアップが必要なのか

スタートアップといえば、IT 系を思い浮かべてしまいがちです。しかし、エネルギー、食糧、半導体、医療、気候変動対策など、IT や仕組みだけでは解決できない社会課題も数多くあります。

課題の解決に必ずしも最先端の技術が必要なわけではありません。しかし、優れた技術を大規模に社会実装することがクリティカルなものもあります。

今、スタートアップといえば IT や Web です。起業しようと思ったら、相当の覚悟がない限りは IT 系での起業になるでしょう。しかし Deep Tech に興味があるのなら、ぜひ挑戦していただきたい。そう思って、それを支援する仕組みや人のつながりが作れないかと考え、ゼミという形で小規模に始めてみることになりました。

それに、世界を見てみると、Deep Tech スタートアップの流れが少しずつ変わっているようにも見えます。

たとえば、IT 系スタートアップにより多くの注目が集まるにつれて、スタートアップ全体に資金が集まり始めています。その結果、スタートアップとして挑める領域も増えてきています。宇宙などはその一例です。

海外に目を向けて見れば、かつては Web/アプリ業界で活躍していたシリアルアントレプレナーが続々と Deep Tech の領域に参入し、起業し始めています。この領域に大きな機会があると見込んでのことでしょう。

実例として、楽天に買収されたメッセージングアプリ Viber の創業者は、イスラエルでグリーン水素のための水電解装置のスタートアップを起業しています。Elon Musk も PayPal の後に Tesla や SpaceX などの Deep Tech を始めたことは皆さんもご存知かと思います。

Deep Tech は確かに参入が難しい領域です。しかし一度うまくいけば競合はさほど現れず、長く繁栄する会社を作ることも可能です。それに、優れた製品を作ることができれば、世界中から引き合いが来ます。

日本全体を見てみても、Deep Tech の領域を振興することは重要であると思っています。特に以下の2つの観点です。

  1. 産業政策
  2. 科学政策

1. 産業政策としての Deep Tech の重要性

シリアルアントレプレナーをはじめとした世界の潮流を見ていると、今、日本からもそうした Deep Tech スタートアップが多く生まれなければ、20~30年後の産業は立ち行かなくなるのではないか。そんな危機感があります。

もしバリューチェーンの重要な部分のほとんどが海外企業の製品に占められたとき、日本はエネルギーや食糧などの輸入にとても困ることになります。海外でスタートアップが生まれてきている状況を見ると、その可能性は大いにありえるのではと思います。

それに日本のスタートアップは、ITやAIに偏り過ぎていて、ポートフォリオを組めているとは言い難い状況です。

たとえば産業分野別の調達10万ドル(約1400万円)以上のスタートアップ数が10社以上ある分野を見てみると、日本はAI、バイオ、ロボティクスの3分野のみですが、他のEU諸国は5分野以上です。

イノベーションエコシステム形成に向けた産学橋渡しの現状と課題|戦略提案・報告書|研究開発戦略センター(CRDS) (jst.go.jp)

日本のスタートアップが CrunchBase に登録されていないだけの可能性もありますが、とはいえ実感として Deep Tech のスタートアップは少なく、それは起業家の数が少ないことに起因しているように見えます。そこを増やしていくためには、この領域に更なる支援や、もっと注目を集めることが必要です。

それに今でこそ ICT の産業は連続して伸び続けていますが、30 年単位で見てみれば各産業の栄枯盛衰は激しく、スタートアップももう少し幅広い領域で出てくるのを推進した方が良いのではと思います。

Visualizing 200 Years of U.S. Stock Market Sectors (visualcapitalist.com)

2. 科学政策としての Deep Tech の重要性

学術の領域を見てみると、博士課程進学者が減っていることは課題として挙げられています。その背景には雇用不安が一因としてあるでしょう。博士課程を終えても就職先がない、という問題です。

現在の大学生が生まれた、2000年の出生数は約120万人でした。一方、2021年の出生数は約80万人です。20年後には大学生が 2/3 になる計算です(海外からの留学生が増えたり、大学進学率が増えない限り)。単純に考えれば、大学での職は減る可能性が高いことになります。

大学での職が増える可能性が低いのであれば、博士を必要とする産業に雇用を託すことになります。もし産業界に博士の雇用が生まれなければ、博士に進学しようと思う人は多くはならず、その結果、高度な科学技術を用いた事業を始めるのはどんどんと難しくなっていくでしょう。そのサイクルを止めなければなりません。

新たな産業や事業を作るときには、スタートアップは一つの有力な選択肢です。Deep Tech スタートアップを振興して、そこでその領域の雇用を生むことは、科学技術に挑む人の裾野を広げることにもつながるはずです。

科学技術って楽しい

ただ、危機感だけで Deep Tech を振興するべきだと思っているわけではありません。科学や技術に携わることは、何よりも楽しいことです。お金ももちろん重要ですが、お金のためだけに生きているわけではないはずです。人生を豊かにする趣味の一つとして、科学技術の探究は人の好奇心を満たす良い領域でもあると思っています。

そしてその趣味とお金が合致するのが、Deep Tech スタートアップという選択肢です。

そうした経済的、嗜好的な背景から、Deep Tech スタートアップを増やしていきたいと思っています。

アクセラレーターの前の活動を

日本でも Deep Tech の支援は増えつつあります。しかし主にアクセラレーターやコンテストが多く、まだアイデアが固まっていない人向けのものは多くはありません。しかし足りないのは Deep Tech 領域に挑む起業家の数だと感じています。

そこで Deep Tech の領域に取り組む起業志望者を増やすための活動を増やすことにしました。具体的には、ゼミのような形式で、調査や議論を行いながらアイデアの最初の段階を固めていくことができればと思っています。仲間がいることで、一歩踏み出そうと思う人も多いはずです。

恐らく少数で始まることになるとは思います。ただ、これから何かを調べ始めたいと思っている東大卒業生の方々と、一緒に何かを行なっていければと思います。

現在技術がなくても大丈夫です。まだ領域が決まっていなくても構いません。Deep Tech を使った起業をしたいという気持ちがあればぜひ一度応募を検討してみていただければと思います。

Deep Tech のスタートアップを調べるだけでも楽しいですし、世界の潮流が垣間見えて面白く思えるはずです。

なお、医療機器やバイオなどはかなり勝手が違うため、今回の対象の範囲外としていますが、またいずれうまくいきそうなことを感じたら、対象を拡大していきたいと思います。

皆さんのご応募、お待ちしています。

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Written by Taka Umada

The University of Tokyo, Ex-Microsoft, Visual Studio; “Nur das Leben ist glücklich, welches auf die Annehmlichkeiten der Welt verzichten kann.” — Wittgenstein

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