大企業とスタートアップの連携に関する 4 つのベストプラクティス

日本企業のスタートアップ投資額が 5 年で 27 倍になったというニュースが年始にありました。このニュースにある通り、日本のスタートアップへの資金環境はかつてないほど良くなってきています。

一方、今後は資金供給だけでは十分ではない部分、たとえば「スタートアップと大企業の連携」は今後の国内のスタートアップエコシステムの活性化にとって重要なトピックだと考えています。

その理由は、スタートアップが成長していく上で、国内で初期顧客が早く見つかる環境になることや、提携などを通して新たな成長の機会を見つけることが重要であり、そのために国内の大企業は顧客やパートナーとして欠かせない存在と考えるからです。

また大企業側にとってみても今後、事業会社から事業投資会社へとシフトという流れがある中で、スタートアップとの連携は事業にとってますます欠かせなくなってくるはずです。

スタートアップエコシステムについては先日もまとめましたが、今日は『大企業とスタートアップの連携』について年末年始にやってきたことを書いておきます。

企業間連携のベストプラクティスを共有する

さて、500 Startups は大企業とスタートアップの連携のベストプラクティスについて、レポートをまとめています。

これらのレポートでは、大企業側の視点から、スタートアップとの連携をどう進めていくかというベストプラクティスがまとめられています。

そこでこの年末年始、海外の先進的な企業からのゲストを呼んだり、このレポートをベースにしながら、小規模なイベントを実施しました。それらを総合すると今のところ、スタートアップと大企業との連携については、大きく4 つのベストプラクティスがあるのかなと思っています。

  1. ファネルで考える
  2. スタートアップとの連携の数を増やしつつ、連携のプロセスを速くする
  3. ポートフォリオを持つ
  4. 素早く成果を出す

当たり前といえば当たり前かもしれませんが、レポートはアンケートデータも一緒に提示されており、説得力を持つプラクティスとなっています。以下でそれをまとめたいと思います。(※この記事は大企業側の視点に立っている記事です)

1. ファネルで考える

スタートアップとの連携を大きく 3 つのファネルで考えるというのが 500 Startups の一つのプラクティスとして挙げられています。ファネルは以下の三段階になります。

  1. ディールフロー
  2. 連携
  3. 成果
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ファネルモデル:スタートアップとの連携によるイノベーションの実現:世界のトップ企業が実践するベストプラクティス

(※なお、二段階目の『連携』の中の「パートナーシップ」には、一般的な共同開発などのアライアンス以外にも、商取引を含んでます)

第二弾のレポートでは欧米を中心とした企業がどのファネルで、どのようなことをやっているのかの数字もアンケートを元に出しています。

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各ファネルの目的:スタートアップとの連携によるイノベーションの実現:世界のトップ企業が実践するベストプラクティスの図を編集

このデータから、多くの企業が、スタートアップとの連携において以下のようなものを狙っているということがわかります。

  • 【3. 成果】新たなテクノロジーの活用や導入を成果目的にしている
  • 【2. 連携】成果を得るためにスタートアップとの実証実験やパートナーシップ、スタートアップへの出資、M&A を行っている
  • 【1. ディールフロー】連携を実施するために、アクセラレーターやコンテスト、ハッカソン、起業家向けイベントを実施している

今回ゲストで呼んだ海外企業も、これらのファネル全体をカバーするような仕組みを作っているところでした。

日本の場合

日本でもコーポレートアクセラレーターなどを実施している企業は増えてきましたが、それをファネルという流れで考えている企業の方は、これまでお話してきた中では少ない印象を受けています。

特に日本では真ん中の『連携』の手段を持ち合わせず、ディールフローの領域の「スタートアップ支援」だけをする企業も多くいる、という指摘もありました。特に M&A を行っている企業が 48% いるとレポートにはありますが、日本と比較すると相当多いのではないでしょうか。

2. スタートアップとの連携の数を増やしつつ、連携のプロセスを速くする

スタートアップのほとんどがうまくいかないのと同様かそれ以上に、大企業とスタートアップとの連携はうまくいきません。

データによれば「実証実験の 10% 未満しかビジネスに発展しない」という企業が 48% です。つまり 10 個試してやってようやく 1 個成功する、という企業がほとんどだというのが現状です。

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スタートアップとの連携によるイノベーションの実現:世界のトップ企業が実践するベストプラクティス

もちろん個々のトライアルの成功の確度を上げることも重要だと思いますが、一方でスタートアップがスタートアップ側の事情(資金ショートなど)で企業の継続自体が難しい状況が起こることも考えると、「失敗を前提とした連携」を考えていくほうが有効であると思います。

そうしたことを考えると、大企業側にとっては十分な試行の量を確保するか、という部分が問題になります。

しかし同時に欧米圏においても、実証実験の数は十分ではなさそうだ、というデータもレポートに記載されてます。

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スタートアップとの連携によるイノベーションの実現:世界のトップ企業が実践するベストプラクティスより

データによれば、年間の実証実験の数は5 件以下のところがほぼ半分です。これでは中々連携の成功例が出てこないのも仕方がないように見えます。

こうした実証実験の数の少なさの原因はいくつかあると思います。ただ、レポートではその中の一つの理由として「開始までの時間がかかりすぎる」という点が触れられています。

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調達プロセスにかかる時間:スタートアップとの連携によるイノベーションの実現:世界のトップ企業が実践するベストプラクティスより

このレポートによれば、半分以上のケースで 3 〜 6 ヶ月かそれ以上の時間がかかっています。(しかも決定した”後”の時間です)

これだけ調整に時間が必要になってしまうと、一度の資金調達でおおよそ 18 ヶ月分ぐらいしか余命を獲得できないスタートアップにとっては、資金ショートが目の前に来てしまう可能性がかなり高くなります。そして時間が経って資金調達の時期が始まれば、実証実験や PoC などを進める時間的余裕がスタートアップ側にもなくなってしまいます。

また他の企業との連携の可能性も模索しているとすれば、スタートアップが足の遅い企業と付き合うインセンティブはほとんどなくなります。

「連携スピード」にチャンス:そのためにも数を増やす

こうした連携のスピードが遅い企業がほとんどなのであれば、逆に言えば連携のプロセスを早くすることがまさに、他社と比べて優位に立つことができる、ということでもありそうです。この連携のスピードを早くした会社はスタートアップからの評判も良くなるのではないでしょうか。

そしてこうしたプロセスの高速化は正直なところ「自社の関連部門の慣れ」次第、という話を聞きます。

初めてのことは時間がかかりますが、二度目三度目とやっていくうちに早くなっている、という実感は何社かの皆さんにはあるようです。だからそのために「数を多く仕掛ける」というのがここでも重要なポイントではないかと思います。鶏と卵の関係かもしれませんし、言うは易し行うは難しの典型だとは思いますが…。

とはいえ、ベストプラクティスとして、NDA の簡略化やデータサンドボックスの提供などの活動が行われていることがレポートに書かれているので、こうした対処策を予め打っておくのは重要ではないかと思います。

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連携を早めるためにやってること:スタートアップとの連携によるイノベーションの実現:世界のトップ企業が実践するベストプラクティスより

3. ポートフォリオを持つ

スタートアップとの連携には戦略的な『手段のポートフォリオ』と、連携候補となる『スタートアップのポートフォリオ』を保つ必要があります。後者は先ほどの「数が重要」という部分と関わってきます。

前者の『手法のポートフォリオ』は、企業側が自分たちの目的に沿って、どのようなスタートアップとの連携施策を採るべきなのかを考える必要がある、という 500 Startups の第一弾のレポートからです。具体的には以下の表で指摘されています。

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またその他の調査にも、どういった目的でどういう手段を使えばよいかについて、倉林さんの『コーポレートベンチャーキャピタルの実務』では以下のような調査が紹介されています。

アライアンス

  • CVC やアライアンスは少ないリスクでの技術の探求に適し、M&A は既存技術の活用に適するとされている (Eisenhardt and Brown, 1997)

CVC

  • M&A と比較すると、革新的なアイデアを発見する目的においては CVC は投資効率が良い (Dushnitsky, 2011)。これは M&A と比較すると少額の投資で新たな技術や市場に関する知見を得ることができるため。

M&A

  • M&A は「顧客基盤の拡大と統合」「製品ポートフォリオの隙間の充足」「横展開の加速化」「人材獲得」の 4 つの目的で実施する事が多い (McKinsey, 2015)

その上で、重点分野に対して、多くのスタートアップとの連携を試みることで、一社との取り組みがうまくいかなくてもなんとかできるような考え方も後者の『ポートフォリオ』アプローチとして考えておくべきということが指摘されていると考えています。

日本の場合

この表を参考にしながら、日本の企業の研究開発費のデータと、スタートアップ連携の実績を見てみると、大きく以下のような傾向があるように見えます。

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それぞれがどういった活動をしているかから戦略を見た場合ですが、それぞれ業界で同じ特徴を持っているところと、具体名が上がる会社とで別れています。

業界の中で他社がどのような連携戦略を取っているかを見ながら、自社がどのようにスタートアップと連携していくべきかを考えるときに、こうしたポートフォリオの整理の仕方は有効ではないでしょうか。

4. 素早く成果を出す

レポート以外にも再三指摘されてるところでありますが、大企業はまずは社内の関係部門での信頼関係を構築していく必要があり、そのためには社内に通用する短期的な成果を出すことがポイントとして挙げられてます。

そうした社内の信頼を積み重ねることで、より挑戦的な活動を社内で通しやすくなる、というのが(当然といえば当然なのですが)ベストプラクティスです。また成功事例を出すことで、スタートアップとの連携の社内からの引き合いも増える、という話もありました。

さらにいえば、ここでのポイントは『成果』の合意を関係部署としておくことであるという指摘もあります。

海外のとある企業では関連部署とゴールと KPI をがっちりと事前に握ることで、成果が見えづらいと言われるスタートアップの支援活動に理由ができたことを紹介してくれました(たとえばそのときの例として、支援先スタートアップの資金調達額が一つの KPI として挙がっていました)。

一方、素早く成果を出すためには「どういうスタートアップと付き合うべきか」というスタートアップのポートフォリオをどう組むかが重要になってきます。

たとえばシード/アーリーステージのスタートアップとの連携は、まだ製品のクオリティが十分ではないケースが多く、「短期的な成果」を求めるには不向きです。未熟な製品の場合は顧客基盤の紹介などもしづらいですし、成果が上がるのも中長期になってしまいます。一方、短期的な成果をスタートアップ側に求めようとするとお互いのゴールの不一致になるケースも多々あります。

破壊的イノベーションに目を配る、という明確な戦略でなければ、企業側の連携や支援はミドルステージやレイターステージのスタートアップへの支援を中心にしたほうが短期的な成果は上げやすくなるはずです。先述の海外企業も、短期的に成果を出すために一旦ミドルステージやレイターステージの支援に移行してきたということを言っていました。(そこで社内の信頼を醸成することで、再びシードやアーリーの支援に行くことも可能なのかなと思います)

ただシード/アーリーステージのスタートアップの支援は、スタートアップ側の熱量やコミットメントも大きく、担当者が「楽しい」ので、ついそちらによってしまがちですし、シード/アーリーステージの製品の最初の顧客となってくれる企業は重宝されるはずなので、この部分を狙いに行くのもありではないでしょうか。

まとめ:実情と今後に向けて

以上はレポートをベースとした、ベストプラクィスの紹介になります。

とはいえ、書いていても思ったのですが、これらは理想に近い話ではあります。理想がなければ向かう方向もわからないとは言え、その上で日本の実情について出た議論も共有したいと思います。

たとえば日本の大企業にとってみれば、スタートアップの数が少ないという課題があります。たとえば戦略的に攻めたいと考えている領域において、たくさんの試行の数を打てるほど日本にスタートアップの数がないため、ポートフォリオを組もうとしても組むことができない、という声がありました。

またオープンイノベーションを牽引する部門以外の関連部門や現場の足が遅いという問題も見聞きします。それこそトップのコミットがあることの重要性が説かれますが、その一方で現場の巻き込みが弱いと、スタートアップとの連携のインセンティブのない実務部隊で止まってしまう、ということはしばしば聞く問題点としてあります(特に日本はトップダウンでは動かない企業が多く、現場の隠れた権限が多いので)。

今後に向けて

そこで数をもっと確保していくために、各社が合同でアクセラレーターをする、というのも、数を増やす上での一つのやり方かもしれません。各社が「うちには合わないけれど御社はどうか」といった融通をすることは海外のアクセラレーターでも行われていると聞きます。

また多くの共投資ネットワークを持つ VC ほど、技術の非連続性に関する可能性に早く気づくことができる (Maula, et.al., 2013) と指摘されるように、コーポレートアクセラレーターならコーポレートアクセラレーター同士の、CVC なら CVC 同士のコミュニティを作っていくかは、選考に漏れたスタートアップを掬い上げるためにも重要ではないかと思います。

あるいは、大企業側から X Prize のような形で自社の課題を大規模なコンテストなどにして広く告知して、その課題領域でのスタートアップを増やそうとする、ということも一つのやり方ではないかと考えています。

そうした考えていることを実行に移しながら活動をしてきたいと思っていますが、今後の大企業とスタートアップの連携についてもしご意見等ありましたら、以下の匿名のフォームからご意見や情報等いただけますと幸いです。

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The University of Tokyo, Ex-Microsoft, Visual Studio; “Nur das Leben ist glücklich, welches auf die Annehmlichkeiten der Welt verzichten kann.” — Wittgenstein

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