起業家が初めての投資の話を受ける前に、少しだけチェックしてみてほしいこと

学生に対して 90 万円で 90 %の株式を持っていくダークエンジェル投資家がまだいることを Twitter で知りました (返信で私のスライドを参照していただき、ありがとうございます)。

こうしたアンフェアな契約は、自分の知らないところでまだまだあるんだろうなと思います。

そこで今回は「突然投資家から投資(出資)のオファーをもらったとき」に「その投資家が悪い人なのか良い人なのかをある程度判別するため」の tips を紹介したいと思います。

以下に紹介する作業を終えるのに合計数日間かかるかもしれませんが、実働はだいたい5時間ぐらいでいいと思うので、少しだけ立ち止まってチェックしてみてください。これからの数年間、その投資家と付き合っていくかもしれないなかで、5時間ぐらいの時間を調査に投資するのはそれほど悪いことではないはずです。

なお、契約内容自体は個々の事情が反映されるので今回は踏み込みません。最低限騙されないようにするための tips という位置づけです。また対象読者は学生や新社会人ぐらいの方を想定しています。

投資を受ける前にやってみてほしいこと

シード VC やエンジェル投資家から投資の話をもらった時には、以下の3つをまず数日間でやってみることをお勧めします。

  1. その投資家のリファレンスを取る(2~3時間)
  2. 最低限の知識を自分で身に着ける(2~3時間)
  3. 無料の相談サービスを使う(Optional)

たとえば従業員を雇うときのことを考えてみてください。当然のことながら「あの人はどんな人?」「前職でどうだった?」と、その人のことを知っている人に聞くと思います。

投資家に対しても同様に、その人を知っている人にリファレンスを取ってみることをお勧めします。

初めて資金調達する人は「こんなことをすると相手の心証を悪くするかも…」と躊躇されるかもしれませんが、安心してください。良い投資家なら調べられても悪い話はあまり出てこないので、嫌がることはないでしょう。著名な VC である Fred Wilson も Mastering the VC Game という本で、「時間をかけて投資家のことを調べる起業家のことをまともな投資家は高く評価する傾向にある」といったことを述べています。

順番としては、まずは起業家、投資家、支援家の順に聞いてみるのが良いでしょう。特に、

  • 投資先の起業家がピンチに陥った時に、どういう行動をとった投資家なのか(ちゃんと支えてくれたのか、何もしなかったのか、それともお金を引き上げたのか)
  • どういうスタイルで関わってくる投資家なのか(放置なのか、支配する人なのか、聞いたときには答えるような人なのか)

というあたりを聞いてみるとよいと思います。

もちろん起業家と投資家には相性があるので、一人の起業家が悪く言っているからといって必ずしも悪い投資家とは限りません。それぞれ少し異なるコミュニティにいる、何人かの起業家にリファレンスを取ってみることをお勧めします。

ほかの投資家に聞くことも一つ手としてあります。オフィスアワーを不定期に開催している VC などもいるので、うまく使ってみてください。次の資金調達の際の投資家の立場として、今回のこの契約が本当にリーズナブルかどうかの意見を聞くのもいいでしょう。

次に起業家の支援をしている人たちに聞くのも手です。ただ参考になる場合とそうではない場合があります。その投資家のことをイベント等で知っている、という支援家ではなく、その投資家と直接仕事をしたことのある支援家に聞いてみることをお勧めします。

なお、投資家には噂がつきものです。投資家は投資を断ることが多いですし、経営方針の違いで起業家と仲違いすることもあるため、起業家からは嫌われることも多々あります(第三者視点から見ると起業家が悪かったのに投資家が悪者にされたケースやその逆のケースなども聞きます)。

どの話を信じるかは最終的には自分で決めることになると思いますが、リファレンスはぜひ取ってみてください。

磯崎さんの「起業のファイナンス」や「起業のエクイティファイナンス」は読んでおいたほうがよい書籍です。多くの人は長く参照する書籍になるので、それこそ自分への投資だと思って、買って読んで傍に置いておいてください。

また増島先生の Startup Innovators も起業家にとってはとても心強いサイトです。

そのほか、資金調達については、過去に私の書いたスライドなども参照してみてください。

起業家の知り合いがいない、といった人の場合は、無料の相談サービスを使うのも手としてあります。

たとえばスタートアップを支援している士業の事務所は無料相談を受け付けている場合もあります。東京都など、自治体がやっている起業相談窓口もあります。

大学でも起業相談受付を実施している場所は多いです。たとえば東京大学では教職員や現役学生向けに東京大学産学協創推進本部が相談窓口を設けています。ぜひ活用してください。

投資家に提案してみてほしいこと

上記のようなことを実施するため、投資家には投資の話をもらったときには、まず以下のことをお願いしてみてはいかがでしょうか。

  1. 他人に相談してもいいか尋ねる
  2. 一緒に投資契約の読み合わせをする

他人に相談する時間をもらって、他人に相談してください。勉強の時間をもらうのもいいでしょう。最低限の知識がある状態で資金調達をしたほうが、起業家と投資家の両方のためです。

これに No というようなら悪い投資家である兆候かもしれません。

投資契約書の読み合わせをお願いしてみましょう。良い投資家なら、初めての起業家は投資契約に不慣れなことをきちんと知っていますし、質問にもきちんと答えてくれます(あまり初歩的過ぎる質問だとお互いのためではないので、ちょっとだけ勉強してから読み合わせをするようにしてください)。

契約書は悪いことが起こったときのための条項が多く入っています。そういう意味で、契約書は先人たちの知恵とノウハウの結晶でもあり、読み合わせをすること自体が起業家にとっては先々の経営の勉強になるはずです。契約書は面倒なものと思いがちですが、「もしこういう悪いことが起こったら」という視点で読んでいくと少しは面白くなるのではないかなと思います。

いずれにせよ、読み合わせをしたときに特定の条項を誤魔化すようなら悪い兆候です。

エンジェル投資家の場合は引受契約だけの場合もあります。その人が投資に慣れていて評判が良ければ問題ないかもしれませんが、エンジェル投資の実績があまりないような人の場合は、起業家と投資家のお互いのために契約をしておいたほうが良いかもしれません。

悪い投資家である兆候

悪い投資家であるサインとして、以下のようなものが挙げられます。

  • 他人に相談させない
  • 「数日以内に決めないと投資しない」という時限爆弾付きの設定をしてくる
  • 出資金の割合に応じた株式の配分を提案してくる

時限爆弾付きのものは「相談させない」のと実質的に同じことです。時限爆弾を用意する理由として投資家は「本当に決断できるかどうか、あなたのやる気を測っている」とかもっともらしいことを言うかもしれませんし、実際そうなのかもしれませんが、数日は一般的に言えば性急すぎます。とはいえ長く待たせすぎるのはお互い良くないので、数週間程度で受けるか断るかを決めるつもりでいたほうが良いと思います。

出資金に応じた株式の配分は、よく知らない人であればリーズナブルに聞こえるかもしれませんが、そんなことはありません。Y Combinator は「株は将来の貢献度に応じて持ち分を決める」という一つの指針を出しており、基本的にはこれに従って決めたほうが良いと思います。あとは出資してもらえる金額との調整です。Equity Equation などを参考にしながら相手に渡す分を検討してください。

調達の前にもう一度立ち止まって考える

ここまで読んできた人は、「こんなこと当たり前だ」と思えるかもしれません。でも実際に突然投資の話が来ると近視眼的になってしまって、当然のことを忘れてしまうものです。だからチェックリストを使うことはものすごく有用であると思います。

最後になりますが、こういう記事を読んで新しい情報を得たような方であれば、エクイティでの資金調達がそもそも必要なのかどうかを一度立ち止まって考えるのも良いと思います。

実際、私のもとに資金調達の相談に来る方もいらっしゃいますが、まだ調達は早いのでは…?という人が多い印象があります。特にエンジニアの人件費やソフトウェアの外注費のための資金調達を考えているなら赤信号です。そういう場合は資金調達ではなく、手伝ってくれる仲間を探すタイミングではないでしょうか。

そのうえで、まずブートストラップ(自分たちの資金)でやるのをお勧めします。賞金の出るビジネスコンテストなどで優勝しまくってお金を稼ぐことも可能かもしれません。助成金という手もあります。借入という手段もあります。エクイティファイナンスは資本コストの重い調達手段なので、選択肢としては後ろのほうだと思っておいたほうが良いと思います。

いずれにせよ、成果が出ていれば出ているほど、投資家からは良い条件を引き出すことができます。良い投資家から良い条件で投資してもらうためにも、極力資金調達は先延ばしにして、プロダクトの改善に時間を使ったほうが良いケースが多いです。まずはぜひ顧客から愛されるプロダクトを作ることに時間を使ってください!

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The University of Tokyo, Ex-Microsoft, Visual Studio; “Nur das Leben ist glücklich, welches auf die Annehmlichkeiten der Welt verzichten kann.” — Wittgenstein

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