プロジェクトの初期でピボットをするときに考えてほしいこと
新しいプロダクトを作ろうとしたとき、開始から数週間でプロジェクトが頓挫することが往々にしてあります。そして「アイデアを大きく変えよう、大きめのピボットしよう」という苦しい判断になったとき、学生の皆さんには以下のようなプロセスを実施してみるよう紹介しています。
1. 意思決定のプロセスを活用して、本当に今ピボットすべきかどうかを考える
まずピボットのタイミングやピボット先を勢いで決めるのではなく、Stanford 大学の Heath 教授らが提唱している WRAP という意思決定プロセスを適用して考えてみることをお勧めしています。WRAP は以下の略を表しています。
- Widen Your Options (選択肢を広げる)
- Reality-Test Your Assumptions (仮説の現実性を確かめる)
- Attain Some Distance Before Deciding (決断の前に距離を置く)
- Prepare to be Wrong (誤りに備える)
たとえば WRAP の「A」の中に含まれる「もし親友が自分と同じ立場だったら、自分はどうアドバイスするか」という問いは、少しだけ客観的な視点から自分の状況を見ることを手助けしてくれます。
また W の「選択肢を広げる」というのも重要です。「ピボットするべきか否か」の二択ではなく、もっと多くの選択肢を考えたうえで意思決定してみてください。
ピボットを経営上の意思決定の一種だと考えると、WRAP のような有効な意思決定プロセスを使うだけでチームの意思決定の質は少しだけ上がるはずです。
WRAP については以前少しだけ詳しく以下で解説しましたので、以下の記事も参照してください。
2. やっている最中に新たに気付いたことはないか
ピボットに至るまでの実践を通して顧客からの学びを得ているのは皆さんにとって大きなアドバンテージです。
一般的に、良い解決策よりも良い問題を見つけるほうが大事だと言われますが、何かを実践してきた皆さんにとってはまさにその実践の過程こそが問題に気づくための機会だったとも考えられます。
たとえば顧客の課題に新たに気づいたこともあるでしょうし、顧客からのフィードバックを通して「もしかしたらこっちの問題のほうが重要かも」といった気付きがあったのではないでしょうか。
あるいは実装を進める中で自分たちが大変だったことがあれば、それも新たな気づきです。例として、決済サービスを提供する Stripe は多くのサイドプロジェクトを通して、決済機能の実装が難しかったから Stripe というサービスを始めたそうです。だからたとえば以下のような課題を自分たちが感じたのであれば、もしかするとそれが新たに取り組むべき課題かもしれません。
- チームの運営が大変だった? それはなぜ解決できなかった?
- 開発が大変だった? であればどこが大変?
- メンテナンスが大変だった? どうすれば簡単になる?
これらの学びや気づきについては、単に会話で出していくのではなく、黄色のポストイットなどでチーム全員で書き出してみることをお勧めします。チームの気づきを共有することで、新たな発見があるはずです。
3. なぜ失敗したのか
気付きを振り返ったうえで、今回の失敗を振り返ってみるようお願いしています。二度同じ失敗をしないことが大事だと言われますが、そのためには失敗についての認識合わせが必要です。
これもポストイットに書き出してみてください。色は異なる色のほうが良いでしょう。そして張り出してみると、お互い失敗の原因が異なるところにあると考えているのに驚くはずです。
書き出した失敗はつらいものも多いですが、失敗は学びを得る機会ともなります。例えば今回、顧客に会いづらいのが失敗の原因だったとしたら、おそらくそもそも想像上のニーズだった可能性が高いです。もっと近くにいる顧客、たとえば友達の課題を解決するものだったり、あるいは自分の課題を解決するものを考えてみたりするのはどうでしょう。たとえば Paul Graham はこう言っています。
「もし少し年齢が高かったり特定の分野に十分な経験があるなら、自分は欲しくないが、人が欲しがるかもしれないと思うものを作ろうとしてもよい。しか しこれはずっとリスクが大きいやり方だ。ほとんどの偉大なスタートアップはファウンダー達が欲しいものを作ることから始めたと思う。Google、 Yahoo、 Apple、それにMicrosoftでさえそうだ。」
4. そもそも本当にやりたいことは何か
ピボットの時には多くの場合、軸足を決める必要があります。
誰か特定の顧客像が見えていて、彼らの課題を解決したいなら、課題や顧客を軸足にピボットすると良いでしょう。逆に特定の技術を使って何かを解決したいと考えるなら解決策側に軸足をピボットすることになります。そういう風にどちらを軸足に置くかは、「そもそも自分たちが何をやりたかったのか」を振り返る必要があります。
当然のことのように思えるかもしれませんが、何かにのめりこんでしまうと本当にやりたかったことを忘れてしまうものなので、ピボットはある意味、「自分たちはそもそも何をやりたいのか」に立ち返る良いタイミングでもあります。
自分たちは技術をやりたいのか、あるいは誰かの課題を解決したいのか、そもそももっと異なることをしたいのか、モチベーションが上がらなかったのはなぜか、などなど、色々な考えが出てくると思います。
できれば黄色とは違う色のポストイットに「自分たちが本当にやりたかったこと(技術、顧客)」を個々人が書き連ねて張り出してみましょう。意外な気づきがチームの中で共有できることも多いです。
場合によってはここで「自分たちのやりたかったこと」や「興味のあること」に対して、●シールを張ってもらって、自分たちの興味関心をヒートマップ的に可視化してもらったりします。
5. やりたいことはやってみないと分からないので、とりあえずやってみる
ただ「そもそも何がやりたいのか」を考え出すと、つい時間を使いすぎてしまいます。だから日数を決めて、2, 3 日後までに各自まとめてくる、という風に締切を切ってしまうことをお勧めします。
その上で、ある程度の方向性が決まったら何かをやり始めてみてください。結局、自分がやりたいことはやってみないと分からない部分も多くあるので、ピボット先がある程度見えてきたら、何かプロトタイプなどを作ってみ始めることをお勧めしています。
ピボット後にすぐに小さな勝利をつかめるように気を付ける
ピボット後の難関は、チーム内で同意を得ることのようにも思えますが、もう一つ重要なのはチームを再起動させてチームのモメンタムを改めて作っていくことであることが多いように思います。
大きめにピボットしようという判断も、幾度もの小さな失敗やピボットを積み重ねた末に起こったものものだと思います。そんなときにはチームの士気は削がれていることも多く、チームの心も少しバラバラになってきていることがあります。場合によってはチームから抜けそうな人もいるでしょう。
そんなとき、ピボットを決めたら、そのピボット先ですぐに小さな進捗や小さな勝利を積み重ねることが重要です。
「スタートアップはモメンタムによって生き延びる」と言われますが、モメンタムは小さな勝利を重ねることから生まれます。たとえばすぐに顧客の元に行き、自分たちのアイデアが少しでも光明があるものであることをチームメンバーに示せれば、少しだけモメンタムが戻ってきます。あるいはチームで一生懸命ディスカッションするのも良いでしょう。
逆にピボットをすると決めた後に、手や足を動かさないまま延々と個々人に考え続けているだけだと、チームの心は離れて行ってしまう傾向にあるように思います。ぜひリーダーやチームメンバーの一部が率先して、モメンタム作りをしていってみてください。
最後に
ピボットするのも、継続するのも、あるいは撤退してすべてをやめてしまうのも、いずれも非常に難しい判断だと思います。ただ、できれば学生の皆さんにはピボットして、次のプロジェクトに取り組んでほしいと思っています。
そもそも新しいことに取り組むのですから失敗する確率が高いのも仕方がありません。たとえば綿密な調査と幾重もの承認を経て市場に出されたであろう消費財ですら、約75% は失敗するといわれているので、初期のプロジェクトの失敗率がそれ以上になるのは当然といえば当然です。
そしてきっと二回目、三回目のプロジェクトのほうが早く進みます。ピボットしたほうが資金調達の金額が 2.5 倍も高いという Startup Genome Report などの調査もあるぐらいです。
私の周りを見てみても、学生の最初のプロジェクトは散々な出来になることが多いですが、そこから立ち上がり、繰り返し挑戦していく学生は次第に良いプロダクトを作るようになる傾向があります。
有名な起業家も以下の通り幾度もの失敗を乗り越えて挑戦し続けて、そして成功したという経歴を持っています。ぜひ一度の失敗で諦めず、挑戦を続けてください。本郷テックガレージでは皆さんが挑戦し続けることを支援できればと思っています。
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