デプロイの時代
若手研究者の方との対談(近々 Web に記事が出る予定)の中で、VR や深層学習、そして IoT、Edge など、様々な技術分野にまたがりながら研究をされているその御方が、どういった方針で技術を採用して研究や実装を進めているかを聞いて、Perez の S カーブを思い出しました。
S カーブを簡単に図示すると以下のようになります。
S カーブはもともとは以下のような長期に渡って起こる技術革命の説明の中で用いられていた考え方です。
優れた理論は過去を説明できるだけではなく、未来を予測することの役にも立ちます。そして冒頭に挙げた研究者の方の話を聞いていると、この S カーブは個別要素技術の予測や整理においてもある程度応用できるのかなと思いました(もちろん類似の整理法では Gartner のハイプサイクルもありますが、ちょっと視点が違うので、Perez のほうを使ってみます)。
例えばその研究者の方の技術採用と応用の方針をお伺いすると、それぞれの技術について以下のような判断がなされているようでした。
- VR: インストール時期
- 深層学習: インストールとデプロイの間?
- IoT: デプロイ時期
確かに VR や深層学習は、Facebook や Google といった大手企業がまさに今、大きなお金を突っ込んでインフラを確立しようとしているフェーズとも言えそうです。
このように技術をフェーズ別で考えることで、どの分野がスタートアップに最適で、そしてどういう方法論でスタートアップを進めていくべきかが自分の中で整理できるかもしれません。
後半のデプロイの時代に差しかかかった技術は、デマンドが比較的はっきりしており、進歩自体は比較的ゆっくりのため、Lean Startup や顧客開発的にデマンド側の要望を聞きながら、低コストで迅速に改善していく方法が有効のようです。多くのスタートアップは、このデプロイの時代の技術を使ったほうが、低コストなインフラを使って顧客ニーズをもとにして開発を進められるので有効のように思えます。また低コストであるため、様々な技術を新結合しやすいのもこの時期です。
ただ一方、デプロイメントの時期に達していないインストールの時期の技術に関しては、一般的な目的のために作られるものが多く、また開発の中で激しい技術的変化が起こり、さらにデマンドサイドも何が欲しくてどう使えるのかが分かっていないので、アンチリーンな方法論も視野に入れて考えるべきなのかもしれません。
またスタートアップとしても、インストールの時期の技術においてはインフラ整備目的のスタートアップが有効のように思えます。たとえば Deep Mind や Oculus は機械学習や VR におけるインストールの時期の、インフラ系スタートアップだったとも考えられそうです。
イノベーションと研究
さて、シュンペーターによれば、イノベーションのタイプは以下の 5 つに分類できるとされています。
- 新しい財貨すなわち消費者の間でまだ知られていない財貨、あるいは新しい品質の財貨の生産
- 新しい生産方法の導入
- 新しい販路の開拓
- 原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
- 新しい組織の実現
「技術革新」と訳されてしまったがために、インストール時代の技術的な”発明” (invention) がイノベーションだと日本では思われがちですが、デプロイの時代に差し掛かった技術については、その技術をうまく社会に展開して価値を出すことも立派なイノベーションの一つであると捉えられます。そうしたフェーズにおける研究の方法論がリーンスタートアップの方法論に近いことを聞けて、個人的にはなるほどなと思った次第です。
もちろんこの Perez の説は一つの理論や整理の方法でしかありませんが、技術のフェーズというものを意識しながら研究やスタートアップを進める際に、この Perez の整理は多少役に立つのではないかと思ったのでメモ程度に書いておきます。