2016 年のスタートアップエコシステムを考える:「サイクルの速度」「超初期のプロジェクトへの投資」という課題と対策

Taka Umada
8 min readMay 30, 2016

--

スタートアップエコシステムの図、電通報より:http://dentsu-ho.com/articles/2693

2016 年も中盤となりました。現在日本のスタートアップエコシステムはより健全な方向に向かっているのでは、という話を良く聞きます。

投資面を見てみれば、

など、良い兆候が見えるとともに多くの資金が流入しているように思います(逆にバリュエーションが高騰しており、独立系は投資を控えているとも聞きますが)。また行政や士業からの手厚いサポートも増えてきているようですし、育成プログラムも数の増減はあれ続いています。

プレイヤーとしての起業家も、かつて若手が中心だった時代とは違い、幅広い年齢層で才能が集まり始めています。さらにスタートアップに参画する優秀な人材も増えつつあります。

プレイヤーやサポーターが増えること自体は間違いなく素晴らしいことだと思います。一方そうした人々が詰めかけてエコシステムが変わっていく中で、見落とされがちなのが以下の 2 つの課題なのかなと感じています。

  1. どうやってサイクルを早めるか
  2. どうやってエコシステム全体を大きくするか

この記事ではその二つの課題の対策について考えてみたいと思います。

「サイクルの速度」はクロスボーダー M&A で

エコシステムに参加する人が増えることは良いことですが、そのすべての関係者に利益がいくように、そのエコシステムがぐるぐると回るスピードにも注目する必要があるのかなと思っています。通例、そのスピードを上げたいときにはボトルネックを特定する必要があります。

そして今現状は出口 (Exit) が若干ボトルネックになりつつあるのかなと思います。

テック系の IPO については国内外ともに公開市場からの信頼を失っている部分もあり、企業体質の健全化が求められています。こちらはプライベートのころから公開市場の評価軸や stewardship、corporate governance を意識して粛々と改善をしていくしかないのかなと思います。

一方 M&A については、2016 年の日本ではのれん代の問題などがあり、スタートアップの M&A がなかなか行われず、Exit は未だ IPO がほとんどを占めるという状況です。もちろんこの状況が生まれているのは、大企業が買収しても良いと思えるようなスタートアップが少ないからかもしれません。また企業買収経験の少ない国内の大企業は Post Merger Integration のノウハウが不足していることも課題としてしばしば指摘されます。仮に M&A がスタートアップの事業上の選択肢に浮上しても、買収の後のスタートアップが大企業内で冷遇されるのであれば、M&A という形での Exit はそれほどオススメできる選択肢ではなくなってしまいます。

しかし M&A が盛んになればより短いサイクルで Exit が可能になり、エコシステムが素早く回り始めて、より健全なエコシステムになっていくことが期待されるので、M&A を増やしたいという希望があるのも事実です。

そうした状況を鑑みてか、500 Startups Japan はクロスボーダーの M&A を仕掛けていくことで、このボトルネックを解消しようとしているようです。個人的にそれは賛同する方向性です。

そのためには海外展開の知見を国内に貯めていく必要があると考えています。その領域はまだ未開拓に近い状況です。しかしスタートアップはライバル同士でパイを奪い合うのではなく、新しい価値を生み出すことが本来的な意義であるため、そうした未知の領域だからこそスタートアップ同士の具体的なノウハウの情報交換がもっと促進されるようにできないかと考えています。またそのためには VC やサポート側から公開可能な範囲で、ノウハウのコンテンツなどが出てくることが重要ではないかと思います。

http://500startups.jp/two-things-part1/

もう一方で、うまくいかなかったスタートアップをどうやってうまく清算して、次の挑戦に結びつけてもらうのか、というノウハウの蓄積も同時に重要になってくるのではないかと思います。

「エコシステムを大きくする」ために、挑戦的なスタートアップへの投資と次のテーマの模索のプロジェクトを増やす

エコシステムに関わる人の多くが幸せにならなければエコシステムは大きくなっていきません。たとえば US の VC はホームランビジネスであり、投資 10 個のうち1個でも大当たりすれば回収できる、といったようなモデルです。そして大当たりが出れば VC だけではなく、エコシステムに参加している多くの人に(多くの場合は異常なほどの)利益が還元されます。

そうした文脈で、Facebook や Google 級のメガベンチャーが国内から生まれていないというのが、エコシステムを大きくしていくための課題の一つとして挙げられるのではないかと思います。

業界の投資金額が増えてきているため、Hard Tech などの挑戦的なスタートアップを増やすチャンスも出てきていますし、産官学から人工知能を始めたとした研究系スタートアップへの投資も増えつつあります。こうした挑戦的なスタートアップへの投資はメガベンチャーを生むためにも必要であり、良い兆候なのかなと思っています。もちろん投資の資金源が豊富なだけでは十分ではなく、時価総額を肯定するような顧客と利益構造がないと意味がないので、世界を狙っていく必要はあるとは思います。

ただ一方で、ファンドサイズが大きくなるとシード期への投資が手薄になる可能性があり、また不安定な経済状況を鑑みてかリターンが確実なスタートアップやマーケットドリブンの投資に偏りつつあるのではないかという不安もあります。

そうした変遷を経る中で、次のテーマ探しにきちんと投資していくことがボトルネックになりつつあるのではと感じています。たとえば 2016 年の VR の隆盛の始まりは Oculus がきっかけだと思いますが、Oculus は 2011 年に当時大学生の Palmer Luckey が親のガレージでプロトタイプを作り始めたことが最初期でした。当時にしてみれば、HMD に取り組むというのは狂気の沙汰や狂ったアイデアとしか思われなかったでしょうが、そうした狂気の投資やよく分からない分野が次のトレンドを生んでいます。

(ちなみに私も Vuzix VR920 を 2011 年に買いましたが、きっかけは MMD + HMD のデモで、ある種日本が HMD の分野で先行する可能性もあったんじゃないかとすら思えます)

ほかにもたとえば Google は初めての投資を受けるまで約 350 回のピッチを経ており、当時は理解してもらえなかったことが伝わってきます。

Exponential Organization: http://www.amazon.com/dp/1626814236/

日本は全体的にこうしたリスキーな投資が苦手と言われますが、次の数年のトレンドを作りうるサイドプロジェクトは今生まれつつあるとも考えられます。そこにうまくお金を流していくことで、世界のトレンドを生み出せる次のメガベンチャーが生まれるエコシステムが作れるのではないかと思います。それはスタートアップ以前のプロジェクトに投資するということであり、個人的にはこうした超初期に少額でもいいのでお金が回る仕組みを何とか作れないかと考えています。

結果として、エコシステム全体としてアンチフラジャイルな形で投資が分散すれば良いのではないかと考えています。

--

--

Taka Umada

The University of Tokyo, Ex-Microsoft, Visual Studio; “Nur das Leben ist glücklich, welches auf die Annehmlichkeiten der Welt verzichten kann.” — Wittgenstein