「起業したいときに 1,000 万円集まる」状況を作れるかどうかをサイドプロジェクトの成功基準としても良いのでは

サイドプロジェクトによる「実績と自信」が狂ったアイデアを実行可能にする

様々なスタートアップやサービスが、本業ではない「サイドプロジェクト」から生まれています。

たとえば Twitter や Instagram、GitHub や Craigslist などはサイドプロジェクトから生まれたスタートアップです。また Slack や Flickr も、ゲームを作ろうとしていた Stewart Butterfield たちのある種のサイドプロジェクトから生まれたと言えるかもしれません。Gmail や AdSense は Google 社内の 20% ルールの中で生まれたサイドプロジェクトとして有名です。そもそも Google 自体や Yahoo!、Facebook なども、学生の本業である学業のサイドプロジェクトとして生まれたと言えるのではないでしょうか。

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そして Paul Graham も Stanford 大学の講義の中で、「最良のスタートアップは、サイドプロジェクトとして始まらなくてはならないとさえ言えるかもしれない」と述べています。

良いスタートアップのアイディアを得るには、一歩下がってみることだ。 スタートアップのアイディアについて必死に考えるんじゃなくて、 頑張らないでもスタートアップのアイディアが浮かんでくるように 心の持ち方を変えるんだ。最初はそれがスタートアップのアイディアになるなんて 気づかないくらい自然に浮かんでくるようにね。

これは単に可能性の話じゃない。Appleも、Yahooも、Googleも、Facebookも そうやって始まったんだ。このどれも、最初から企業にするつもりでさえなかった。 単なるサイドプロジェクトだったんだ。最良のスタートアップは、 サイドプロジェクトとして始まらなくてはならないとさえ言えるかもしれない。(Before the Startup, 翻訳は Shiro Kawai さんによるもの)

これまで学生によるサイドプロジェクトや社会人のサイドプロジェクトを何個か傍で見てきました。その経験から、サイドプロジェクトを行うことはスタートアップを目指す人にとっても、大企業に勤める人にとっても、特に「何か動くモノが作れる」エンジニアの皆さんにとって様々な良い影響があると感じています。

サイドプロジェクトには趣味やライフワーク、プロボノ活動といったものからビジネスを考えたものまで様々な種類があると思いますが、今回は特に「いずれスタートアップをしたい」と思っている人たちにとってのサイドプロジェクトを考えてみたいと思います。

サイドプロジェクトではあえてビジネスを意識しないほうが良いかも

冒頭の Twitter などの例のようにサイドプロジェクトがビジネスになればそれは幸運です。だからといってビジネス化を主目的としたサイドプロジェクトが良いかというと、個人的にはそれには少し反対の立場です。

もともとサイドプロジェクトのメリットは、スタートアップなどの真面目なビジネス形態では取れないリスクを取れるという点にあります。実際 Twitter や GitHub など、これまでになかった新しいサービスがサイドプロジェクトとして始まった当初は、それが本当にビジネスになるかどうか分からない状況でスタートしています。しかしそうした「ビジネスになるかどうか分からない」狂ったアイデアだからこそ、真面目な人達には思いつけず(あるいは実行できず)、急激な成長を遂げてスタートアップとして成功することができました。

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Finding Billion Dollar Secrets (https://austinstartups.com/finding-billion-dollar-secrets-95fb2b6489fb#.zb9a1agn4)

一方で、ビジネスになることが既に分かっているのならビジネスとして始めれば良いと思います。しかしそうした「ビジネスになると分かっている」ことを始めるのは、資本を持っている大企業や中小企業、そしてかつてスタートアップと言われていたような企業が参入しやすい場合も多く、小資本で急激な成長を目指すスタートアップにとってはあまり向いていないビジネスも多いのではないかと思います。(もちろん、まずはスモールビジネスとしてスタートしたいという場合や、市場が急激に成長しているのに周りは気づいていない状況などであれば、最初からビジネスとして始めてしまうほうが良いと思います)

このようなことを考えると、サイドプロジェクトにとっては「ビジネスになるかどうか」は成功の良い判断基準ではないようにも思えます(もちろんビジネス化が達成されるに越したことはありません)。むしろ「ビジネスになるかどうか」をプロジェクトの初期の成功の指標に置くことはあまり良いことではないようにすら見えてきます。

だからといって、プロジェクトに成功の基準がないとチームの目標も定まりづらく、モチベーションの維持に困るケースも多々あります。

プロジェクトを通して「1,000 万円集められる」実績を作ることをひとつの成功の基準とする

そこで提案したいのは「プロジェクトに参加した人たちが今後起業したいと思ったときに、500 — 1,000 万円の投資を集められるぐらいの実績や信用、自信をつけること」を一つのプロジェクトの目標とすることです。

実際、日本の起業家の何人かも「1000 万円ぐらい集まるような信用ができたときに起業すべき」といった話や「起業の前には最低限の資金を調達できるか、仕事や調達先のコネを準備しておくことが必要」(CA 藤田さん)といった話をされています。

1,000 万円は 2, 3 人のチームが 1 年間生きていくために十分な資金だと言えそうですし、個人的にも 1,000 万円程度集まるような状況を作っておいたほうがよりよいスタートアップのアイデアを実行できるようになると考えています(後述)。また結果的に 1,000 万円集まれば良いのだから、ビジネス化を考慮していない狂ったアイデアの実行もサイドプロジェクトとして可能です。そして 1000 万円集まる状況をゴールとして設定することで、じゃあたとえばコンテストに出よう、海外の展示会に出そうなどの短期的で具体的で少し高めの目標も設定することができます。

その他にも、このようなゴール設定は以下のようなメリットがあると思います。

  1. 様々な狂ったアイデアのプロジェクトが行えるようになる
  2. 心理的な安心感を作る
  3. 発表の機会を通してネットワークを作れる

それぞれについて詳しく解説します。

1. 様々な狂ったアイデアのプロジェクトが行えるようになる

前述のとおり、ビジネス化可能なプロジェクトだけにするとついリスクを気にしてしまいます。なので、あえてビジネス化をそこまで深く考えないことで、リスクの大きな狂ったプロジェクトを始めることが可能です。

そして「1000 万円集められる信用や実績を作る」ことを基準にすれば、様々なプロジェクトを気負わず始めることができます。

結果的に 1000万円程度の信用を作ればいい、という緩い目標なので、メディアアートの作品などもプロジェクトとして始められます。またオープンソースへの貢献も起業のときの信用につながりそうです。その他、自分のすぐ傍にいる人たちにとって役に立つツールを作ることも一つのサイドプロジェクトになりえます(実際、最初のエンジェル投資は親類や友達であるケースも多いです)。もとよりそうした自分に近い顧客のニーズに答えたり、あるいは「台湾にいる彼女と長距離電話をしたいから」生まれたプロジェクトなど、自分が使いたくて他人に作って欲しいものを作った結果、最良のスタートアップのアイデアが生まれるとも言われています。

サイドプロジェクトにおいてビジネス化をゴールにしないことで、このような様々なプロジェクトや狂ったアイデアを許容できるようになるだけではなく、すぐに手を動かすことができるようになります。そして何より自分たちで楽しみながらプロジェクトを進めることができます。実際、周りを見ていると多くのプロジェクトは「その場のノリ」で始まって、ビジネスには不向きなものも多くありますし、それで良いのだと思います。

たとえばパーソナルモビリティの WHILL もそうした週末のプロジェクトから生まれたものの一種と言えそうです。

そもそも、ある人が(既存の電動車椅子は)ダサいと言っていたので、作っただけなんですよ。週末みんなで遊んで。そういう成り立ちなので、「起業しよう」「市場はここが狙い目だからこれをやろう」っていう感じじゃなかったんです。そういうことを言っている人は古いですよ、と思っちゃいますけどね。若い世代にはあまり刺さらないんじゃないかと思っていて。

(パーソナルモビリティの WHILL の成り立ちについて、CEO 杉江さんのインタビューから。太字は引用者によるもの)

Linux や Git もある種そうと言えるかもしれません。

それが私の仕事の仕方なんです。ただ楽しみのためにプログラムを書くこともありますが、私はプログラムに役に立つものであってほしく、私のプロジェクトはどれも、私自身が必要としていたものだったんです。

(Linus Torvalds の TED の講演から。訳は青木靖さんのもの)

逆に例えば、一生懸命ビジネスモデルを考えてビジネスコンテストで優勝したところでお金は集まらないと思うので (少なくとも私の周りのエンジェル投資家はお金を出さないので)、ビジネスコンテストなどはサイドプロジェクトとしては不向きなのかもしれません。

何度も言うようですが、もちろんそのプロジェクトの延長線上で起業できればベストです。ただ、本当に急成長を目指すのであれば、発想を豊かにして、リスクのある狂ったアイデアのサイドプロジェクトをしたほうが良いのではないかと思います。

2. 心理的な安心感を作る

人は少しでも不安を感じていると、意思決定が保守的な方に振れてしまいがち、という話を読んだことがあります。逆に言えば、不安を適切に取り除きさえすれば「リスクの大きなことに挑む」という意思決定ができるということです。サイドプロジェクトはその種の心理的なセーフティネットを構築するのに役立ってくれます。

実際、周りを見ていると、インパクトが大きくてリスクが高いことに手を出しているのは、自分で稼げる自信がある人か、もう稼がなくて良い人の傾向にあるように思います。たとえば Elon Musk は Paypal で一度成功したからこそ、SpaceX や Tesla などのリスクの大きな事業を始められているように思いますし、国内でも一度 Exit を経験したシリアルアントレプレナーの方のほうが大きな事業に挑戦する傾向にあるように感じています。

また Exit を経験していなくても不安が少ない人、つまり「自分だけなら生きていける」あるいは「お金ならすぐに集まる」という自信がある人は、よりリスクの高い意思決定ができるとも考えられます。

私の周りの初回の起業家でも「プロジェクトとして進めていくうちに沢山の人が興味を持ってくれて、数百万円ぐらいなら集まる自信がついたし、生きていく分なら稼げると思ったから、起業することに不安を感じなくなった」と言っている人がいました(むしろこの記事はその人の言葉があったからこそ書いたようなものなのですが)。

ドプロジェクトによる実績や自信は、起業の際の心理的なセーフティネットになってくれます。そして起業した後に失敗しても、そうした実績があればスタートアップに失敗したとしても再就職がきっとうまくいくはずです。

シリコンバレーは起業に失敗した人に対してもキャリアが開かれているので、起業しやすい環境だと言われています。一方、日本は事業はたたみやすいがキャリアがたたみにくい環境だと言われます。その差異を嘆いても仕方がないので、日本では自衛のためだけではなく、より大きなリスクを取るために、まずは「1,000万円ぐらいなら集まる」という実績と自信をサイドプロジェクトを通して作っておくことが良いのではないでしょうか。

3. 発表の機会を通してネットワークを作れる

昨今、テクノフィランソロピストや官公庁、大学、民間を中心に様々な技術コンテストが開催されていることもあり、技術的なサイドプロジェクトには様々な発表の機会が提供されています。

プロジェクトを世に出して周囲からの反応を得ることやフィードバックをもらうことは、そのサイドプロジェクトの質を高めることに貢献してくれます。そして何よりそうした発表の機会を通して様々なエンジェル投資家や支援者と出会うことができます。またコンテストは記事になりやすいので、その領域に興味のある人に自分たちのことを見つけてもらうことも可能です。

たとえば AlphaGo を開発したことで注目を浴びた Demis Hassabis は、Google に $500M (約 500 億円) で買収されるに至る DeepMind 創業時、Peter Thiel にエンジェル投資をしてもらうために人工知能のカンファレンスで発表したそうです。

こうした発表の機会をうまく使えば、そのサイドプロジェクトをきっかけに人とつながることができます。そして仮にその発表したサイドプロジェクト自体がダメになったときにも、人のつながりは残ります。そうした人とのつながりは次のサイドプロジェクトや、あるいは本腰を入れたスタートアップを行う際にも色々と協力してくれるはずです。

海外では多くのソフトウェアエンジニアがサイドプロジェクトを行っている

Stack Overflow の調査によれば、多くのソフトウェアエンジニアが平均して毎週 7 時間程度、サイドプロジェクトを行っているとのことです。

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StackOverflow 2015 年の調査 (http://stackoverflow.com/research/developer-survey-2015)

こうした流れを日本でも少しずつ取り入れて、少しでも良いサイドプロジェクト、ひいてはスタートアップを増やす支援ができないか、引き続き模索していきたいと思っています。

冒頭に引用した Paul Graham の「起業の前に」はとても良いエッセイです。特に大学生の方はぜひ今一度再読してみてください。

起業のやり方っていうのは、あなたが解こうとしている問題のほんのサブセットにすぎない。 解くべき本当の問題は、いかにして良い人生を送るかってことだ。 野心的な人々の多くにとっては確かに、起業は良い人生の一部であり得るだろうけれど、 20歳がそれをするのに最適な時期だとは思わない。 スタートアップを始めるっていうのは、超高速で深さ優先探索をするみたいなものだ。 でもほとんどの人は、20歳くらいの時は幅優先探索をするべきなんだ。

Written by

The University of Tokyo, Ex-Microsoft, Visual Studio; “Nur das Leben ist glücklich, welches auf die Annehmlichkeiten der Welt verzichten kann.” — Wittgenstein

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