狂ったアイデアは、「今はまだ名状しがたい」狂った問題から始まる

まだ言語化できていないものに挑み、それに名前をつけること

急成長するスタートアップに必要なアイデアを「狂ったアイデア」や「おもちゃのようなもの」、あるいは「ほとんど誰もがあなたに同意しないような、重要な真実」というふうに以前まとめさせていただきました。

ただ狂ったアイデアという言葉は、ついつい「狂った解決策」に意識を向けてしまいがちです。でも恐らく本来そうではなく、「狂った問題」を見つけるべきなのだろうなと思います。そこで今回は「狂った問題」、言い換えると「今はまだ誰も問題だと気づいていないこと」「今はまだ考えづらいことを考えること」についてお話させていただきたいと思います。

まず最初に:狂ったアイデアとは

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だからスタートアップが目指すべきなのは、「今はまだコンセンサスが取れていないけれど実は正しいアイデア」です。ただ単に正しいだけではスタートアップには十分ではないと言われています。

しかし同時に注意いただきたいのは、「悪いように見えるアイデア」のほとんどは単に悪いアイデアだということです。悪いアイデアでは残念ながら成功しません。

短期間で急成長したスタートアップは、「それまで知られていなかったけれど確実にそこにあった概念」を発見している

スタートアップによる概念の発見

  • シェアリングエコノミー: Uber や Airbnb
  • アクションカム:GoPro
  • クラウドソーシング:oDesk (Upwork)
  • マーケティングオートメーション:HubSpot
  • アクセラレーター:Y Combinator

ここに挙げたスタートアップはすべて、それらをまとめる概念とともに語られることが多いものです。

そして彼らのようなスタートアップが出てくるまで、その概念や言葉はほとんど使われていませんでした。こうした新しい言葉や概念の普及に貢献したスタートアップはその市場のルールを作り、市場を独占しています。

我々はなぜそれに気付けなかったのか

イノベーションに対する最高の賛辞は、「なぜ、自分には思いつかなかったか」である。

つまり、イノベーションとはすぐそこにあったのに気付けなかった何かから生まれる、とも言えるのではないかと思います。

前述したスタートアップたちは、すぐそこにあったのに誰も気付けなかった欲望や課題を見つけて、それを美しく解決するプロダクトを作り、たとえば「シェアリングエコノミーという新しい概念が確かにある」ということを周囲に気づかせました。

しかし何故我々は彼らが出てくるまで「すぐそこにあるもの」やすぐそこにあったはずの課題に気付けなかったでしょうか。それが問題になります。逆に言えば、その原理を知ることができればイノベーションをより起こしやすくなるような環境が整えられるのではないでしょうか。

そしてそれに対する現時点での私の仮説は「良い言葉がなかったから」というものです。

良い言葉がないと、人はそれを考えづらい

Airbnb 以前にもルームシェアは存在し、一時的に誰かの家に泊まるというような行為はありました。Uber Pool 以前にも友達同士のライドシェアはあったでしょうし、リーンスタートアップ以前にもリーンスタートアップ的なやり方は存在していました。ドラッカーやテイラー以前にもマネジメント手法は存在していたはずです。

こうしたサービスや言葉が出てくる前にも、解決されるべき課題や洗練されていない解決方法は存在していました。

しかし概念や言葉がないために捉えづらいものだったのではないかと思います。多くの場合、言葉による分類がなければ人はそれを意識しづらく、概念がなければそれをうまく把握できません。そしてその結果、それがビジネスになるものとしては認識されず、誰からも見過ごされていました。

だから逆に言えば、既存の言葉では捉えがたい何かを見つけること、今はまだ名状しがたい名前のないものを探すこと、そこから急成長する狂ったアイデアは生まれてくるのではないでしょうか。

狂った解決策ではなく狂った問題(名状しがたい問題)を

Slack はメールに潜んでいた課題を解決するものだったと言われています。Slack 以前にもメールというものにフラストレーションを感じている人は多かったとはいえ、それがスタートアップで解くべき課題であったと考えていた人はごく少数でした。かろうじて、メーラーを良くして生産性を上げることや、新しいメールサービスを立ち上げるような取り組みをしていた人がいたぐらいと言えるでしょう。Slack はそれをメールとは異なる、美しい手段で解決しました。

Amazon に買収された Kiva Systems は、物流事業をやる上で避けられないと思われていた「物流センターでの人が移動しながらピッキング作業や物の移動」を問題として捉え、それをロボットという 2003 年当時にとってみれば狂ったアイデアで解決しようとしました。

コンテナが登場する以前、1960 年代までは、陸から運ばれてきた多様な形状の荷物をバランスよく積み込んだり積み下ろすことが船運会社の競争優位でした。しかしコンテナで陸海をシームレスにつなぎ、「バランスよく積みこむこと」そのものをなくす、ということをすることで、これまでの競争優位そのものを無効化しました。

しかし彼らも当初は、本当にそれが解くべき課題なのかどうか自信がなかったのではないかと思います。それでもそこには「名状しがたい何か課題のようなもの」があると信じて取り組んでみることで、自分の解決したかった課題の概念をようやく把握できたのではないでしょうか。

だから、誰もそこに問題があるとは信じてくれない、そして未だ名付けられない何か狂った問題を発見すること、それこそが狂ったアイデアの源泉である、というのが現在の仮説です。

気付けなかったものに気付くために、考えづらいことを考えて、言葉にしづらいものに取り組む

そのために有効な方法を幾つか挙げてみたいと思います。

1.既存の言葉で簡単に表現できるものを避ける

また、まるで言葉遊びのように用いられる Uber for X や WhatsApp for Enterprise、IoT や AI といったような既存の言葉で表現でできる解決策や、誰かが設定した理論的な課題と解決策では、そのスタートアップは大きく成長する可能性が低いといえるのではないでしょうか。

もちろん、ピッチなどのときに分かりやすくシンプルに表現して他人に理解してもらうことは大事です。でも内実はそのシンプルな表現以上の何かが含まれているはずです。

2.ザラザラした大地に戻る

スタートアップにとっても、そこにあったのに気付けなかったものに気づくこと、人々の名状しがたい行動を観察したり、あるいはまだはっきりと見えていない課題に取り組むことを通して課題を把握することが重要なのではないかと思います。

逆に言えば、なめらかな言葉で表現できてしまう課題やアイデアは、まだあなたが十分に狂えていないということなのかもしれません。

3.技術を身に付ける

先ほど挙げた Kiva Systems が何故業界内部の人にとっては当然のように見過ごされていた問題を彼らが発見できたのは、彼らがロボットという解決策に通じていたからと思われます。

マズローはかつて「ハンマーを持つ人はすべてが釘に見える」と揶揄気味に言いました。しかし逆に言えば、最新の技術を知ることによって、特に分野外の技術やツールを知ることによって、自分たちの領域の課題が新しい見え方をしてくることはありうると思います。

新しい技術というハンマーを持てば、きっとこれまで見えてこなかった世界や問題も見えてくるはずです。

4.他人の問題を知る

学際的な取り組みを増やすということは、他人の視点を取り入れるということです。自分だけで様々な視点を身につけるだけではなく、様々な視点を持つ人達と共同作業をすること、様々な人の問題を解決したり、あるいは様々な人に自分の問題の解決を依頼して多方面から検討を加えてみることが、現在解決可能で本当に意義のある問題を見つけて解決するための確実な方法なのだと思います。

実際、例えばグーテンベルクが活版印刷を発明できたのは、彼がぶどう圧搾機を見て、それが印刷に使えることを思いついたからと言われています。別のところで発達した知識やツールが、全く別のイノベーションのきっかけとなることはままあることです。

5.発明するのではなく発見する

だからこそ、初期のユーザーはそのスタートアップのプロダクトを最初から愛してくれるのだと考えられます。初期にほんとうに大事なメトリクスが「ユーザーがプロダクトを愛しすぎて、自然と他の人にそのプロダクトを紹介しているかどうか」だと言われるのは、あなたのアイデアが、普及まで長い時間のかかる「発明」ではなく、短い時間で普及しうる「発見」であるという一つの証拠でありうるからではないかとも言えます。

「未来はすでにここにある。ただ、行き渡っていないだけだ」 — William Gibson

6.考えるだけではなく問題に取り組んで見つける

だから誰かと何かに取り組むことが、狂った問題を見つけるのに大きな貢献をしてくれるのではないかと思います。「ここに何かがあると思うんだよね」といったぼんやりとした直観を、その直観の周りで作業しながら試行錯誤すること、それが狂った問題に気づく第一歩なのではないかと思います。

見えない敵と戦うこと、今はまだ意識しづらいものを意識すること、てか水って何?

ただ、急激に大きく成長するスタートアップのアイデアを得るためには、誰もがまだ気づいていない何かに気づく必要があります。そしてそれに名前をつけることができたとき(あるいは誰かが名づけてくれたとき)、きっとあなたのスタートアップは大きく成長するはずです。

そのためにはまだ言葉のないもの、考えづらいもの、意識しづらいものを意識することが必要で、それはなめらかな言葉では表現できない、今はまだ吃音とともにしか表せない何かがきっと必要ではないでしょうか。

まだ名状しがたい課題に対してあなたが必死に取り組んでいる様子は、他人から見ればまるで見えない敵と戦っている狂人のように映るかもしれません。でもそれがきっと、狂っているアイデアに取り組んでいるということなのだと思います。

ポスト・ピンチョンと謳われた、デヴィッド=フォスター・ウォレスは 2005 年に本稿に少し関連する素晴らしい卒業スピーチを残しています。今は卒業シーズンなのでぜひまた読んでみてください。

2匹の若いサカナが泳いでおり、逆方向に泳ぐ年上のサカナに会いました。すれ違い様、年上のサカナはこう言いました。「おはよう少年たち。今日の水はどうかね。」2匹のサカナは特に気にもとめず、しばらく泳いでから、顔を見合わせて言いました。「てか水って何?」

唯一無二のシンジツとは、「どう物事を見るかは自分で選択できる」ということです。これこそが君たちが受けた教育が生み出す自由の意味です。「適応力がある」という表現の意味です。何に意味があって何に意味がないのか自分で意識的に決められること。何を信じるか自分で決められること。

Written by

The University of Tokyo, Ex-Microsoft, Visual Studio; “Nur das Leben ist glücklich, welches auf die Annehmlichkeiten der Welt verzichten kann.” — Wittgenstein

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