狂ったアイデアかどうかを検証する方法

Taka Umada
13 min readApr 9, 2016

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急成長するスタートアップを作るためには、まだ誰も気づいていない秘密に気付き、他人からは狂ったように見えるけれど実は良いアイデアを見つける必要があります。そうしたアイデアに気づくヒントはいろいろな形で提供されており、以前私も VC や Y Combinator で言われている方法を中心にスライドにまとめました。

http://www.slideshare.net/takaumada/how-to-get-your-own-startup-idea-46349038

そうした狂ったアイデアを思いついた後に重要なのは、「自分のアイデアが本当に狂っているかどうか」という検証です。

これまでほとんど誰も手を付けていない領域のアイデアかどうかを知るためには、他人のアイデアをある程度知る必要があったり、その業界周辺の “スタートアップの土地勘” といったものが必要になってくる場合があります。アイデアを思いつくこと自体はアートですが、検証の手法はサイエンス寄りであり、ある程度方針をまとめられると思うので、今日はそのあたりの情報をまとめてみます。

※注意

顧客の課題にフォーカスしていればそもそも競合を意識する必要はないと言われています。またスタートアップ界隈のトレンドを過剰に知る必要も基本的にはないと思いますし、逆にトレンドに乗ろうとしている時点であまり良い兆候ではないと思います。それにスタートアップを始めるということは、ゲームの攻略法が効かなくなる領域に足を踏み出す (Paul Graham) ことだと言われます。そうした前提の上で以下の文章は読んで下さい。

アイデアを思いついたらまず検索をする

とりあえず英語で自分のアイデアを Google で検索することをお勧めします。アイデアのキーワード(英語)と一緒に「startup」や「fundraise」といった言葉を入れて検索すれば、関連するスタートアップが出てきやすいと思います。

しかしこうした一般的な検索では、既に大きくなっているスタートアップしか引っかからない、という状況が発生しがちです。

皆さんのアイデアに新規性があればあるほど、まだ注目されていない初期のスタートアップが競合になることが多いのではないかと思います。逆に競合が通常の検索で見つけやすいアイデアは、果たしてそれで良いのかどうかを再考するべきなのかもしれません。

初期のスタートアップを見つけるための検索法

以下では、まだ目立っていない初期のスタートアップを見つける方法の幾つかを提案します。そのために是非使いたいのが CrunchBaseAngelList です。

CrunchBase (https://www.crunchbase.com/)

これらのサービスを使って、以下のようなことをしてみることをお勧めします。

1.個人投資家に注目する

「良いディールは口コミから来る」というのは VC が口をそろえて言う言葉です。VC が投資する以前はエンジェル投資家に投資を受けているのが通常であり、特にエンジェル投資家の投資の有無は成功の先行指標となるというデータもあります。なので、エンジェル投資家、個人投資家に注目することで、まだ初期の段階のスタートアップを見つけることができる確率が上がると考えられます。

たとえば、自分のアイデアに関連しそうな類似サービスを CrunchBase で検索して、Investors の欄を見てみてください。その中で個人名があればその人はエンジェル投資家である可能性が高いです。その人の名前をクリックして、ここ数年の投資先を見ていけば、自分のアイデアに類似しているスタートアップやヒントになるスタートアップが見つかるのではないかと思います(※ただしこれはそのエンジェル投資家に投資の一貫性があれば、の話です。逆に無名で一貫性のない投資家は「色々賭けておいてどれか当たればいい」というスタンスの可能性が高いので、あまり参考にならないかもしれません)。

また研究系の場合は AngelList で有名な研究者で検索してみると、その研究室出身のスタートアップが出てくることもあります。米国のトップスクールでは、教授陣がスタートアップのエンジェル投資家やアドバイザーとして入っていることも良くあるため、そうした人間関係を中心に調べてみると技術シーズをベースとしたスタートアップは比較的見つけやすいのではないかと思います。

なおエンジェル投資家の投資実績は CrunchBase よりも AngelList のほうが情報掲載量が多い印象があります。

AngelList のサーチ欄 (https://angel.co/)

2.トップ VC の Seed 投資

また業界の多くのリターンは Top VC から来る(逆にほとんどの VC はリターンを十分な上げられていない)と言われています。そうした Top VC の投資先を見てみるのは非常に参考になります。

トップについての基準はいろいろありますが、CB Insights の VC 間の人気投票や、Forbes の Midas List などが参考になるのではないかと思います。

特に彼らが Seed で投資しているところを CrunchBase で見ていけば、初期のスタートアップの情報を得られる可能性があります。逆に Series A, B などで数十億円投資を受けているところは、同種のサービスを日本国内でタイムマシン経営をするには最適かもしれませんが、十分に狂っているアイデアとは言いづらいと思われます。

3.アクセラレーターの卒業生

有望と言われるスタートアップの多くは、アクセラレータプログラムに入っていることが多いと言われています。なので、アクセラレーターに入っているスタートアップに注目してみると初期のスタートアップが見使えるかと思います。

そのほか有名アクセラレータの最近の卒業生を見てみるのも、土地勘を養う上では参考になるかもしれません。たとえば Y Combinator の卒業生は翻訳されていたりするケースもあります(W16 1, 2, 3, 4)。個人的には Stanford の Start X などが好きです。

http://seedrankings.com/

4.業界特化型の VC やアクセラレータに着目する

業界がある程度決まっているのなら、業界に特化した VC やアクセラレーターの動向を見てみると良いかもしれません。

などなど、意外とマニアックな業界に特化した VC もあるので、業界特化の VC の動向を見てみるのは非常に勉強になるかと思いますし、今後の出資元の候補として知っておいたほうが良いでしょう。

狂ったアイデアを人に話して馬鹿にされる

アイデアを人に話すのはとてもお勧めです。アイデアが十分に狂ってれば真似されませんし、馬鹿にされることで逆説的に自分のアイデアがふつうではないことを確認できると思います(ただし悪いように見えるアイデアのほとんどは単に悪いアイデアなだけなので、注意が必要です)。

それにアイデアを他人に話してみたら、自分の知らない似たようなサービスの情報を手に入れられることも多いでしょう。

スマートな人からは建設的なフィードバックなどを得られる可能性もあります。ただしアイデアに対する、すべての人の意見をそのまま鵜呑みにするのは危険で、ある程度のフィルタをかけたほうが良いと思われます。a16z の投資家である Chris Dixon の考えを元に、聞く相手別でおおよその傾向を決めてみるのも良いかもしれません。簡単に以下で紹介してみます。

関連業界の大企業に属する人

たくさんの事実を提供してくれます。ただしアイデアの評価に関してはあまり聞かなくても良いかもしれません。むしろ彼らから馬鹿にされるようなアイデアのほうが良いアイデアであるように思えます。

VC やコンサル

アイデアそのものへのフィードバックは参考になることはあまりありません。ただしビジネスモデルや類似スタートアップ、戦略についてはヒントを多く貰えるでしょう。

顧客候補

スタートアップがアプローチする課題は今はまだ小さい課題で、これから大きくなると予想される課題のため、今すぐ欲しがる人はいないかもしれません。それを踏まえた上で現状の課題について聞くのは効果的だと思います。

起業家

最も参考にすべき意見を提供してくれることが多いです。また起業経験のあるエンジェル投資家は、より広いビューでの意見をくれることが多いですし、最も早くよいスタートアップの情報を握っているケースが多いのでお勧めです。

自分のアイデアが狂ってないかもと気づいた場合

そうして調べていくと、自分のアイデアに自信を持てなくなってくることも多いのではないかと思います。そうした場合の対応策について、最後に書いてみたいと思います。

類似のアイデアが見つかった場合

調査している中で、類似のアイデアで数年前に失敗しているスタートアップも多く引っかかるはずです。

だからといって、そういう時は諦める必要はありません。単にタイミングが悪かっただけかもしれないからです。だから Sequoia Capital がよく問うとされている「Why Now」の問い、つまり昔と今とで変わっているところがあって、そこに勝機があれば今がまさに正しいタイミングとも言えます。

例えばモバイルコンピューティングが広がったことで、環境は大きく変わりました。AI や VR は昔から試されていましたが、技術の進歩のあった今の段階であればある程度成功する確率が出てきているかもしれません。また文化の変化によって Airbnb は受容されましたが、少しでも早ければ全然ダメだったかもしれません。Uber もきっとそうでしょう。

Marc Andreessen は「かつて失敗した、というのはネガティブな要因ではなく、ポジティブな要因だ」とまで言っています。アイデア自身が正しくても、タイミングが合わなければスタートアップは成功しません。むしろ Idea Lab の Bill Gross はタイミングが最も大きな要因とまで言うぐらいです。

どんな指数関数的な変化最初はゆっくりとしたものであり、それに早く気づいてタイミングよくそれに乗っかるかはとても難しいことですが、もう遅いと心配するのは、もしかしたら早計かも知れません

競合の状態の検証

競合のことがどうしても知りたい場合は、SimilarWeb などを通したウェブのトラフィックを見てみたり、Mattermark Company SearchOwler などを使ってみるのも良いかと思います。

「後悔最小化フレームワーク」を使った検証

また Jeff Bezos の後悔最小化フレームワーク (regret minimization framework) を使って判断してみるのも良いかもしれません。

1994 年に Amazon を始める前、Jeff Bezos が彼の輝けるキャリア (Princeton 卒業後、ヘッジファンドで最年少の Senior Vice President に就任) を手放すかどうかを考えた時に彼自身が編み出したフレームワークだと言われています。

80 歳になったことを想像して、「オーケイ、さて人生を振り返ってみようじゃないか。そこで後悔の数を最小化したい」と言ってみる。80 歳のとき、私はこのアイデア(※ Amazon.com)に挑戦したことを後悔してないだろう。インターネットと呼ばれる、本当に大きくなる何かに参加すること自体に後悔はしないはずだ。もし失敗したとしても、後悔しないと知っている。むしろ挑戦しなかったことに後悔することは間違いないし、それは毎日自分を苛むだろう。だからそれを考えると(起業することは)とても簡単な意思決定のように思えたし、そしてそれはとても良いことだと思った。(中略)… 短期的な考えはあなたを惑わせる。でももし長期的に考えれば、あなたはのちに後悔することのない、本当に良い人生の意思決定ができるだろう。

http://bijansabet.com/post/147533511/jeff-bezos-regret-minimization-framework

だからどんなに競合がいたとしても、あるいは誰から馬鹿にされても、キャリアの終わりに後悔しないと思うのであれば、そのアイデアでスタートアップに挑戦することは何ら悪いことではないと思います。

諦めない

あの輝かしい経歴と実績を持つ Jeff Bezos ですら 60 人の投資家に会って、投資してもらったのは 22 人だけだったと言います。Airbnb の Brian Chesky も、Y Combinator 卒業後に紹介してもらった 7 人の投資家すべてに断られました。

そうした否定をされてもまだ信じ続けられる狂ったアイデアであれば、多分それが今現時点で最も良いスタートアップのアイデアと言えるのかもしれません。

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Taka Umada

The University of Tokyo, Ex-Microsoft, Visual Studio; “Nur das Leben ist glücklich, welches auf die Annehmlichkeiten der Welt verzichten kann.” — Wittgenstein