大企業はアクセラレーターよりスケーラレーター

「スタートアップとつながりを作りたい」「スタートアップとオープンイノベーションを進めたい」と思った大企業が最も始めやすい施策の一つがアクセラレーター、特にシードステージのスタートアップを対象としたアクセラレーターです。そうして昨今、世界中では 7,000 弱のアクセラレーターが開設されており、今現在応募を受け付けているものは約 1,000 という状況になっています (f6s のデータ)。

一方アクセラレーターが増えすぎた弊害も目立ち始めています。

たとえば弊害の一つとして、投資家側はアクセラレーターの度重なる Demo Day で、「Demo Day 疲れ」が起こっています。そのため最近では Demo Day を廃止して、代わりに投資家や大企業のツアーに変更した Microsoft Accelerator や、Demo Day をやらずに投資家へのアップデートに移した ExpaWeb でのストリーミングを試している StartX など、変化が起こり始めています。Y Combinator も Investor Day を設けるなど、Demo Day のやり方を少し変えはじめました。これまで型にはまったアクセラレーターばかりでしたが、環境に応じて変わってきています。

そんな中で弊害として最も懸念なのは、「アクセラレーターに意味がない」という認識が広まりつつある点です。実際、一部のアクセラレーターを除いて事実上ほぼ意味がないのですが(むしろ悪い影響すらあると Sam Altman は言っていたりするのですが)、中でも悪い評判を目につけるのはローカルに根ざしたアクセラレーターと大企業が実施しているアクセラレーターです。

ただ大企業の実施するアクセラレーターの中でも、成果を出しているところは見受けられます。その中でも一つ、個人的に注目しているのがスケーラレーターとも呼ばれる仕組みです。

Scale + Accelerator = Scalearator

スケーラレーターは、スタートアップのスケールの支援を中心にしたアクセラレーターで、Seires A 以降のスタートアップを支援するイメージです。MVP を作り終わったスタートアップを中心に、そのスケールを支援して、「会社」にする支援をしたり、採用や顧客基盤の紹介をしています。この造語は Microsoft Accelerator の Zack が紹介していたものです。

こうしたスケーリング支援の成功例として Disney Accelerator が Sphero を採択して、Star Wars Episode 7 の BB8 が作られたことが挙げられます。採択当時 Sphero はトータルで 35 億円ほど調達済みの企業でした。

また現在、Microsoft Accelerator Seattle の Batch 5 では Series A 前後を中心に、全世界のスタートアップを集めています。どうやら前回の 4th バッチの、スケーリング中心の支援の取り組みがうまくいったようです(前回のバッチでは日本関連の TVision Insights が入り、約 7 億円の調達を行っています)。

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https://www.youtube.com/watch?v=BvKRodd7gmQ

話を聞いてみると、大企業が持っているアセットの一つは顧客基盤だというところに立ち返り、スケールを中心に支援していくことを決めたという話でした。もちろん顧客基盤はシード段階でも顧客インタビューなどに使えるアセットだと思いますが、Series A 以降のスタートアップの製品であれば、大企業の現場の営業がより持っていきやすいというメリットがあります。そしてスタートアップのソリューションが自社の顧客にもメリットがあるかどうかの検証もでき、さらには協業だけではなく買収といった選択肢も出てきやすくなるはずです。

日本のスタートアップにとってシードの資金調達環境がよくなってきた現在、今後ボトルネックになるのはスケールの部分です。そして Stanford の講義である CS183C Blitzscaling (Greylock Partners 主催) では、シリコンバレーが様々な企業を生み出している秘密は「素早くスケールするための手法」、つまりスタートアップするだけではなく、スケールアップするための方法があるからだ、と言われるほどです。こうしたスケーリングのノウハウは日本のスタートアップエコシステムの中にまだ欠けている部分ではないかと思います。

しかしそうした世界展開の知識や拠点、大量生産のインフラ、品質の担保のノウハウなどを持っているのは他でもない大企業であり、世界的に見ても日本の大企業の優位性です。

オープンイノベーションで大企業の出せる価値

決して大企業がスタートアップエコシステムの中に不要というわけではありません。ただ、スタートアップにとっての大企業の価値の発揮の仕方は時期によって異なり、もしオープンイノベーションを進めたいという大企業がいるとしたら、スタートアップの環境が変わる中でいち早くその流れに気付いて対応していくことも重要かと思います。

特にアクセラレーターの実施側である大企業にとってみてはシードステージでの支援の成果は見えにくいという点もあり、成果が見えないと続きません。続かないと、スタートアップにとっては「どうせ大企業の取り組みは続かない」と、結果的に企業にとって悪い印象になり、オープンイノベーションの取り組みを始めることもできません。

そうした意味で、現在のスタートアップエコシステムで大企業が価値を出しやすい仮説の一つがスケーラレーターなのかと思います。

ですので、自社のアセットがそうしたスケーリングに使えるのであれば、他企業と同じシードにフォーカスしたアクセラレーターをやるのではなく、より後ろのステージのスタートアップを支援するスケーラレーターを選択として考えてみてもよいのではないでしょうか。

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f6s に登録してあるアクセラレーター

Written by

The University of Tokyo, Ex-Microsoft, Visual Studio; “Nur das Leben ist glücklich, welches auf die Annehmlichkeiten der Welt verzichten kann.” — Wittgenstein

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