ビジネスモデルと戦略の違い:戦略とは何でないか
少しだけビジネスモデルの話をしなければいけなりました。そこで気になっているのは、ビジネスモデルという言葉が戦略と混同されて用いられがちという点です。そこである程度の整理が必要だと思うのですが、ポーターによる整理が最も的確で使いやすいので紹介させていただきます。ついでに他の概念との違いも整理します。
なお、事業の初期からビジネスモデルばかりを語るのは好きではないですが、多少考えておいたほうが良いと思っています。
■ビジネスモデルと戦略の違い
ビジネスモデルはビジネスの存続の仕方を説明するもの
ビジネスモデルという用語は、ポーターに従ってビジネスの最も基本的な要素をまとめたものであるという認識が良いと考えます。つまり、
- どうやって利益を上げるのか
- コストはどれぐらいになるのか
- 売上はどこから得るのか
- 収益の上がる事業にするためにはどうすればいいのか
といったような、企業が存続するための要素をまとめたものがビジネスモデルです。
しかしビジネスモデルの限界はどうやってビジネスが成り立つかを説明するだけであり、競争優位を説明するために使うことはできません。
戦略はビジネスの相対的な優位性を説明する
戦略とは競争優位、つまり競合他社に比べて”相対的に”優れた収益を上げるにはどうすればいいか、という問いに答えるものです。つまり競合との相対的価格と相対的なコスト、そしてその持続性といった問題を考えた結果が戦略です。存続するだけならビジネスモデルを考えれば良いですが、卓越した収益性を実現したいなら戦略を考える必要があります。ビジネスモデルだけでは十分ではありません。
■マーケティングと戦略の違い
マーケティングは需要サイドを見る
顧客の需要を見て、顧客に対する価値提案 (value proposition) を中心に戦略が生まれることも多いです。そんな価値提案は「どの顧客」「どのニーズ」「相対的価格」といった三つの質問に答えますが、しかしどのような価値を提供しようと、それだけでは競争優位を維持できません。そしてマーケティングはあくまでその価値提案をどうやって伝えるかという活動の一種です。戦略はそれ以上のものとポーターは位置づけます。
戦略は需要サイドと供給サイドを統合する
競争優位を維持するには、その顧客の需要サイドを満たすため、つまり独自の価値提案を生み出すための特別な社内活動、特別な供給サイドを持つ必要があります。価値を生む活動の連鎖はバリューチェーンによって表され、競争優位を保つためには他社とは異なる活動をその中に組み込んで、自社独自のバリューチェーンを作る必要があります。つまりポーターの言うところの tailored value chain が必要です。
これらの供給サイドと需要サイドが合わさってはじめて、競争優位を維持するための戦略と言えます。言い換えれば、戦略とは需要サイドと供給サイドの両方をひとつにまとめるという統合的な性質を持つものであり、需要サイドだけに目を向けて戦略を作り上げることはできません。
■業務効果と戦略の違い
業務効果は類似の活動をうまくやるためのもの
類似の活動を競合他社よりうまくやる能力をポーターは業務効果 (operational effectiveness) と呼びます。一般的には「ベストプラクティス」「実行」と呼ばれます。いずれにせよ、経営資源をより有効に活用することが業務効果です。
そしてポーターいわく、あらゆる企業経営において陥りやすい戦略上の間違いは「最高を目指して競争する」ということです。つまり皆と同じ道を行き、なぜか自分だけが良い結果を出せると勘違いして、「よりうまくやること=業務効果を高めること」を戦略と定めることが多くあるということです。
もちろん業務効果を高めることは必要ですが、そこから堅牢な競争優位を得られることはありません。なぜなら新しいベストプラクティスは模倣され、過当競争になることが多いからです。競争優位を維持するためには、「同じことを他社よりうまくすること」以上の戦略が必要になります。
戦略は違った活動をして結果的にうまくやるためのもの
競合他社とは違う活動の組み合わせを選び、違う活動を行うから結果的に「他社よりうまくできる」ようにするのが戦略です。多くの場合、スタートアップはテクノロジがその違う活動の中心を担うことになります。また日本企業は業務効果の向上は得意ですが、戦略(つまり他社と違った活動をすること)は苦手で、戦略がまずいため収益性が低いと言われます。
もちろん業務効果が高くなければ非効率に陥り、どんな良い戦略も意味をなさなくなるので、戦略と相反しないベストプラクティスは導入し続ける必要があります。
■最後に
どの概念も混同されがちですが、整理して言葉を用いたほうが議論はより効果的になると思うので整理した次第です。なお、ポーターによれば競争優位は競合他社を下すことではなく、卓越した価値と利益を生み出すという点です。そして何より、戦略とは何をするかではなく何をしないかという点がポーターが良く言及しているポイントです。
このあたりはマグレッタの本にポーターの理論の最新状況が反映されつつ (2010 年ぐらいまで) うまくまとまっているので読んでみてください。ポーターの用語の解釈に誤解があったらご指摘下さい。