「スタートアップは雑用が9割」: リアリティショック、早期離職と RJP
最近、外資系の会社や大企業からスタートアップに入ってくる人が増えてきているようです。エンジニアだけではなく、オペレーションや営業、その他のビジネスサイドの人も続々と転職してきているという喜ばしい話をしばしば聞きます。
スタートアップにはキラキラしたイメージがあるため、入ってすぐにそうした輝かしい仕事ができる、と思われている方も中にはいるようで、入社後に「思っていた仕事と違う…」という愚痴を言う人がいる、という話も聞きます。しかしスタートアップの実態は、雑用や細かい地味な仕事を積み重ねて前進していくことがほとんどで、面倒な仕事は避けられません(とはいえ、エンジニアや営業が雑用ばかりやっているのは何かが間違っているとは思いますが)。
たとえば、顧客に合わせて FAX という時代遅れの通信方法に対応したり、切手を買いに行ったり、ゴミ捨て、トイレ掃除、助成金の資料提出、定款の更新、オフィス探し等々、スタートアップには様々な雑用が発生します。そして大体の雑用は会社やその人達にとって初めてのことばかりなので、予想以上に時間と体力が取られ、思うように仕事が進まずストレスがかかる傾向にあります。そのため「思っていた仕事と違う」という愚痴が出てくるのかもしれません。
一般的に、採用後の早期離職の原因はそうした「リアリティショック」だと言われています。たとえば下記は早期離職の原因のリストです(ただしこれはアルバイトやパートに関する調査です)。
ここでは早期離職を招く原因はとして「面接時の説明と仕事の量が違う」(1位)、「面接時の説明と仕事の内容が違う」(2位)、「仕事中にほったらかしにされること」(3位)が挙げられており、1位、2位はまさにリアリティショックが原因の辞め方です。さらに 4 位、5 位も想像と現実のギャップが原因の辞め方です。
早期離職を防ぐための「RJP」
期待値と現実とのギャップによって起こるリアリティショックに対しては、現実的職務予告 (RJP: Realistic Job Preview) をすると効果的だと言われています。さらに効果的な RJP は就職後のコミットメントも上がるそうです。
たとえば Zappos の「辞めたらボーナス」のような RJP (入社後のトレーニングのものですが)は有名な話です。またスタートアップの中には、入社前に少し小さめのプロジェクトに関わってもらって、RJP を行うところもあります。新卒や中途のインターンシップもその一種と言えます。
また今回の記事のように「意外と雑用が多い」といったような、自社の現実を予め伝えておくことも一つの手法だと思います。特にスタートアップの仕事の9割が雑用、というのは言い過ぎですが、雑用が大企業より多くなりがちなのは事実です。人数が少ない分、コミュニケーションコストは大企業より低い一方で、事務的な手続きを円滑にすすめるプロセスはそれほど整っていない会社が多くあります。
実際、 Kaizen Platform の須藤さんの起業から半年のご自身の時間の使い方を見ると、初期メンバーは自分の時間の 20- 30% は雑用が発生するような心づもりで参画したほうが良いのではないでしょうか。特にトップに近い位置で採用された人ほど、例外や雑用を率先して行うことになります。
こうしたことをきちんと事前に伝えておくことで、リアリティショックを軽減できると思うので、今回の記事を書いた次第です。(特に雑用をあまりしなくなってしまった、中堅やベテランの方々が初期のスタートアップにジョインする際にはそういうお話をしたほうが安全ではないかなと)
雑用を減らすために
とはいえ雑用の多さに甘んじてはいけないので、何かしらの対策を打つ必要があります。
たとえば従業員が 7, 8 人を超えてきたところからバックオフィスを担当する優秀な事務員を雇った瞬間に生産性が急激に上がる傾向にある、とエンジェル投資家や VC、起業家の方々と話しているとしばしば聞きます。そうしたサイズになった段階で、自分たちのカルチャーにあった超優秀な事務員の人を探し始めるのをお勧めします。
それまでは自分たちでやるぐらいの心づもりが必要だと思いますが、投資を受けてるなら VC がやってくれることもあります(外部向けの資料作成等)。また US には Managed by Q のようなオフィスサポートをするスタートアップもあり、日本にも類似したサービスがあります。オフィスの掃除などはサービスを活用しているスタートアップも多いようです。
そうしたサービスを活用しつつ、自分たちでも自動化したり、あるいはある種の職務は思い切ってなくしたりする(たとえば電話サポートは一切なくすなど)と雑用は減っていきます。とあるスタートアップの人は業務の自動化に情熱を燃やす人も居ました。早すぎる最適化は良くない場合もありますが、場合によってはそれも一つの手だと思います。
また雑用の多くは手戻りから発生します。手戻りが発生しないよう、予見できる失敗は極力しないために、周りの知恵をうまく使うことも一つの手段です。
雇用側も被雇用側もお互いに面接プロセスなどの高いコストを払ったのに、早期退職が起こってしまってはお互いが不幸です。また大企業などからわざわざスタートアップに参画してくれた方々が、スタートアップを諦めてすぐに大企業に出戻りされたりすると、スタートアップ業界にとっても大きなダメージとなります。
ですので、新しく参画してきた人たちがずっとスタートアップ界隈で活躍してもらうためにも、オンボーディングや早期離職を防ぐためのノウハウをもう少し界隈で共有できていければと思っています。
(なお本記事は 10年以上前に売れた『人は見た目が9割』という本のタイトルを参考にしました)