スタートアップはモメンタムによって生き延びる
“Startup survives on momentum” (スタートアップはモメンタムによって生き延びる) とは Y Combinator の Sam Altman による、MIT の講演での発言です(日本語版要約)。ここでのモメンタムは「勢い」と訳せるでしょうか。
Sam は Y Combinator で数百ものスタートアップを観てきた経験則として、繰り返しモメンタムの重要性に触れています。たとえば、
- 「モメンタムと成長はスタートアップの生命源だ」
- 「自分がスタートアップに伝える数少ない命令のうちの一つは、絶対に会社のモメンタムを失うな、ということ」
- 「進捗(新機能、顧客、売上のマイルストン、パートナーシップ等)をドラムビートのように刻み続けろ」
- 「成長とモメンタムが優れた実行の鍵だ」
などです。特に Stanford の授業で使っていた下記の一枚は象徴的です。
彼いわく、モメンタムから生まれる社内の活力は「きっと次のチャレンジでも勝てる」という思いを生み、更なる大きな挑戦と成長を促してくれます。逆に、モメンタムを失ったら負のスパイラルに落ちていき、スタートアップは死んでしまいます。
この「モメンタムが重要」という指摘はスタートアップのみならず、生まれたてのか弱いプロジェクト全般にも言えることではないかと思います。(※ただし急成長を目指すスタートアップであって、着実な成長を求めるスモールビジネスには別のやり方があるとは思います)
モメンタムを作るために
とはいえモメンタムづくりがそんなに簡単なら苦労しない……と私も思います。
ということで、じゃあどうモメンタムを作れるのか、という点について Sam の言ういくつかの経験則を以下で紹介します。
まずモメンタムは小さな勝利の積み重ねから生まれます。自分たちの進捗を社内や社外に示し続けることがモメンタムの醸成につながる、というのが Sam の弁です。
そしてモメンタムを維持するための tips として、以下のようなものが挙げられています。
- モメンタムの維持をトッププライオリティにする
- フォーカスと intensity (強度) を保ち続ける
- 最初に素早くローンチする
- 製品や新機能を予定通り出荷しつづける
- プロジェクトを小さなチャンクに分けて勝利を重ねる
- サイクルを短くする
- 早期にオペレーションのリズムを作る
- (YC の同期のような)ピア・プレッシャーの中に身を置く
- 勝利を祝う
- 戦略を何度も伝える
- 顧客の声を社内に共有する
- YC 期間中のように、投資家にアップデートを送り続ける
- PR のような偽の仕事をしない(リアルワークをする)
- モメンタムを計測可能にする(メトリクスを設定する)
- メトリクスの目標にヒットしているか常に追う(主に成長率)
最後の方だけ捕捉しておくと、まず会社はCEOが測っているメトリクスによって形作られるとも言います。そしてメトリクスが設定した目標に到達しているかどうかが、モメンタムを維持できているかどうかを測るに有効だ、ということになります。
例えば初期の Airbnb は、「成長率の目標のグラフ」を冷蔵庫や机、洗面所のガラスに張り出していたそうです。また Facebook での最高のイノベーションの一つは「グロースチームを作ったことだ」と Mark Zuckerberg は言っています。彼らは成長というモメンタムに責任を持つチームでした。Airbnb も Facebook も、そうやってモメンタムを維持していました。
モメンタムを失ったときは
組織が大きくなればなるほど、次の成長のハードルが高くなり、成長率やモメンタムを維持するのは難しくなります。また製品がそもそも悪い、セールスがうまくいかない、等々の原因が重なって、スタートアップはモメンタムを失います。
そしてモメンタムを失ってしまったスタートアップは、創業者や従業員が燃え尽き症候群に陥ってしまいがちで、そこから悪いスパイラルが始まってしまう、と Sam は警鐘を鳴らしています。
また、そんなモメンタムを失ったときにビジョンやミッションを語っても従業員は聞いてくれないと Sam は言います(ビジョン等は勝ってる最中に言うもの、だそうです)。
失ったモメンタムを回復する手段としては、
- 小さな勝利を積み重ねる
- セールスに力を入れる(分かりやすい勝利になる)
- フォーカスと強度を見直す(おおよそのスタートアップは十分なフォーカスと強度がない、と言われます)
等々が挙げられていますが、とにかく小さくても進捗を生むことが重要です。Sam はこうした状況を「成長不足は成長によってしか解決しない」と表現しています。
ただし成長を追う前に
モメンタムと成長はセットにして語られますが、しかし成長を追う前に十分顧客から愛されているプロダクトがなければ、スタートアップの死因のトップとも言われる premature scaling に陥ってしまいます。
なので顧客に愛されるプロダクトを作れるまでは、製品開発の進捗などをモメンタムにすれば良いのかなと思います。たとえばそのときは、タスクのフローが流れているかどうかや、プリセールスがうまくいっているか、バーンダウンチャートなどがその際の良い指標になるかもしれません。そして目標とする進捗が出ていなければ、何かが悪いというシグナルです。
モメンタムはそうした意味で、成長率を包含するような便利な概念であり、体感としても分かりやすい言葉なのではないかなと思います。
私も最近は「今の自分のプロジェクトにモメンタムはあるか?」と自問するたびにモメンタムの不足を感じているので、もう少しモメンタムを作り上げられるよう、小さな勝利を積み重ねていければと思ってます。